▼ 03

 やわらかくて熱い何か、何かって言うか斉藤くんの舌しかないんだけど、それがぬるりと薄い布一枚隔てて尻の割れ目を這っていく。その瞬間、ヤバいと思った。気持ちよさが今までの比じゃない。キスされるのも体を舐められるのも気持ちいいけど、それよりもっと気持ちいい。どうしよう、いやどうしようもないんだけど、でもどうしよう。
「待ってヤバい、ほんとそれだめ……!」
「ん……」
 斉藤くんの舌は割れ目に沿って下から上に繰り返し繰り返し這い続ける。今すぐやめてもらわないとこれ以上されたらもうとんでもないことになりそうだと頭では思うんだけど、でも腰は斉藤くんの舌を追って勝手に揺れてしまうし、布というには頼りなさすぎる変態パンツ一枚越しに穴を探り当てた舌先がピンポイントでそこを刺激してくると口が開きっぱなしになって、みっともない声が漏れてしまう。
「気持ちいい?」
「ん、あっ、あ、すごい、きもちい……」
 いつの間にか完全に勃っちゃってるから前も窮屈だし、後ろは後ろで斉藤くんの舌がパンツ越しに穴の中にねじ込まれようとしてるからやっぱり窮屈だし、気持ちいいしなのにきついしでもやっぱり気持ちいいし、べちょべちょになったパンツが張り付いてくる感覚も気持ち悪いはずなのにむしろそれさえ気持ちいい。勝手に息が上がって、変な声も抑えられないし、頭はぼんやりしてきて斉藤くんのことしか考えられなくなっちゃうし、別に全く悲しいわけでもないのにちょっと涙も出てきた気がするし、むしろ開きっぱなしの口からよだれだって垂れちゃってるかもしれない。いやもう分かんないけど、とにかく気持ちいい。
「斉藤くん……あ、あっ、斉藤くんっ」
「ん?」
「もうだめ、っあ、ん、も、無理……」
「気持ち良くない?」
「いいってば、よすぎてだめ……!」
 ついに泣きが入ってしまったところで、ひたすら俺の尻を舐め続けていた斉藤くんの舌はようやく止まった。顔を上げた斉藤くんは体をずり上げて俺に覆い被さってくる。俺の濡れた目元を拭い、それから腰も上げていられなくなった俺が完全にベッドに潰れると、隣に寝転んでぎゅっと抱きしめてくれた。
「ああもう、何で早乙女くんはこんなに可愛いのかな」
「だから可愛くねーってば……」
「うんうん、そうだね。可愛いね」
 ついに耳までおかしくなったらしい斉藤くんは、でれっでれの笑顔で俺に顔を寄せてくる。いやそのべろでさっき俺のケツ、というかパンツ舐めてたよな、と思うも、結局大人しくキスを受け入れて舌を絡めて喜んじゃってる俺は多分ばかだ。
「あー……早乙女くんのアナルぬるぬるだね。可愛いなあ」
 俺の尻に指を這わせながら嬉しそうな顔でそんなこと言っちゃう斉藤くんはもっとばかだけど。
 尻が可愛いって言われても尻はあくまでもただの尻であって可愛いとか可愛くないとかの対象ではないし、全く意味が分からない。でも斉藤くんの濡れた指が小さく水音を立てながら表面をゆっくり撫でるから、呆れるより先にぞくぞくして、心の中ではこっそり期待してしまう。
「ん、あ、さ、斉藤くんのせいだろ……」
「そうだね。ああ、中までどろどろになっちゃったね」
「ひ、あっ」
 パンツを横にちょっとずらして入りこんできた斉藤くんの指は、その言葉通りすんなり俺の中に侵入を遂げた。さすがに奥の方まで濡れてるわけはないから入り口付近までだったけど、浅いところで動かされるだけで斉藤くんの指を覚えちゃっているそこはじんじん疼き出す。
「あ、あっ……んん……」
「ねえ、早乙女くん」
「ふ、ぁ、何……」
「やっぱり直接舐めたいな」
「ん、んっ、あっ」
 浅いところを抜き差ししていた指が、もう少し奥までぐりっと押し込まれた。いわゆるアレ、前立腺ってやつ。自分にそんなとこが存在するなんて斉藤くんに触られるまで知りもしなかったのに、今やすっかり性感帯になっちゃってるところだ。そんなところ触られたらただでさえ気持ちよくなってんのに余計に平気でいられるわけがなくて、せっかくちょっと落ち着いてきたところだったのにまたいっぱいいっぱいになってしまう。しかも斉藤くんのもう片方の手がTシャツの中に潜り込んできて背中を撫でてくるし、息が上がって口を離せば今度は耳まで舐めてくるからなおさら。ずっと放置されてる前がきつい。ちょっと触られたらすぐにイっちゃうかも、というかもうイきたい。
「ね、だめ? 早乙女くん、お願い」
 耳を舐めながら斉藤くんが直接耳の中に囁くその甘えたような声まで呼び水になる。もっとちゃんと触ってくれたらいいのに。前も握って扱いてほしいし、後ろは指1本じゃ足りない、もっと大きくて太いので擦ってほしい。いやもう何でもいい、正直さっきみたいにもっかい舐めてほしい気もなくはないというか大いにあるけど、とにかくもう何でもいいから、
「も、イく、イきたい、斉藤くん……!」
 斉藤くんの首に両手回してぎゅっとしがみつく。本当はいっそもう斉藤くんの足とかに擦り付けて1人でイっちゃいたいくらいには切羽詰まってる。
「イきたいの? 気持ちいい?」
「あっ、いい、いいから……っ、お願い」
「うん、どうしてほしい?」
 その時斉藤くんの声色がどことなく変わった。視線を上げると、至近距離で俺を見つめる斉藤くんの目の色も変わっていた。それに気づいた途端背筋がぞくりとした。斉藤くんは時々、こういうことをしている最中にこんな感じになることがある。こんな感じ、つまり何て言ったらいいんだろう、多分興奮して、俺に欲情してるんだと思うんだけど、とにかくそんな感じ。そして、こうなった斉藤くんはいつもよりちょっと意地悪になる。
「僕としてはここ、パンツ越しじゃなくて直接舐めて気持ち良くしてあげたいんだけどだめかな」
「あ、っ、あっ、……っ」
 だめかだめじゃないかと言われたらもちろんだめなんだけど、でもそんな冷静な判断はもうできなかった。
「な、何でもしていいから、斉藤くんの好きにしていいから……っ」
 何でもしていいなんて、普段だったらそんな何されるか分かんないような危ないこと絶対言わない。でも今の俺は普通じゃないし、というかもう早く何とかしてくれってので頭がいっぱいだからつい言ってしまった。だと言うのにそんな切羽詰まった俺に対して、意地悪な斉藤くんはさらに上を求めてきた。
「じゃあおねだりしてよ、早乙女くん」
「な……」
「早乙女くんの口から聞きたいんだ」
「……」
 確かに昔、斉藤くんが俺に言ってほしいセリフだかなんだかを言ってたような気もする。冷静な時じゃ絶対言えないような頭のわいたやつ。というか決して冷静じゃない今だって言いたくないようなやつ。でももう言うしかないことも分かっていた。斉藤くんはきっと俺が言わないとこれ以上のことはしてくれないだろうし、俺は俺で根競べをしている余裕なんてないくらいに切羽詰まってしまっている。
 だから俺はぎゅっと目を閉じ、意を決して口を開いた。
「斉藤くん、お、俺のケツ……」
「違うよ早乙女くん。ケツじゃなくて?」
「っ……!」
 が、すぐに遮られ、おそるおそる見上ると斉藤くんの目はいつになくぎらついていて、だから背筋がまたぞくりとしてしまった。ただでさえ熱い体はますます体温が上がって、頭の中も奥の方がじんじんと熱くなってしまったような気がするくらいぼんやりとしている。もう何も考える余裕もなくなった俺の口は、だから本能に従って勝手に動いた。
「俺の、あ、あなる」
「うん」
「……」
「……」
「ぺ、」
「うん」
「ぺろ……」
「うん」
「……いっ、言えるわけねーだろもういいから早くなめろよ斉藤くんのばか!」
「早乙女くん……!」
 期待外れだったろうになぜか感極まったらしい斉藤くんに痛いほど抱きしめられながら、俺は思った。ああこれ、どっちにしろ絶対賢者タイムに恥ずかしくてしぬやつだ、と。

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