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 守山は意外なほど優しかった。ただしこの場合の優しかったというのは無理強いしたり乱暴したり、はたまた俺を罵ったり嘲ったりしなかったという意味であって、行為の内容としてはむしろ若干しつこくてねちっこかった。
 守山はまず、長い時間をかけて俺の全身をくまなく撫でた。その手つきはともすれば擽ったいような、指先でそっと撫でていくようなタッチで、それでいて俺の反応を巧みに引きずり出していった。そして俺が身をよじる度そこに唇をつけ、また長い時間をかけて舌と歯で責めるのだった。最終的に脇や足の指の間や尻の穴まで舐められた時には一体どうしようかと考えたものだったが、しかしその時には既にもう抵抗する気力も体力も削がれていた。なぜなら俺は守山の愛撫に一々反応して、その度息を吸ったり吐いたり止めたり、顔をゆがめたり筋肉を緊張させたり、さらには今まで出したことのないような声を上げたり、それを堪えるために唇や自分の腕を噛んだりすることに手一杯だったので、逃げようなんて考える余裕は全くなかったのである。
 俺の必死の努力はさておき、そうして俺の全身を愛撫しすっかり俺の体を弛緩させた守山は、次に俺を風呂に放り込んだ。ちなみに俺は既に歩けなかったので、横抱きの態勢、いわゆるお姫様抱っこで連行された。俺相手に平然とそんなことをしてしまう守山は頭がおかしいとしか言いようがないが、あろうことか俺は口先だけですら抵抗せず、されるがままに大人しく身を委ねていた。守山だけでなく俺の頭もおかしくなっていたのかもしれない。
 風呂場での出来事は俺のプライドを守るために一部省略したいが、とにかく俺は守山に、甘い香りのするボディーソープの泡とシャワーとで体の外も中も綺麗に洗い上げられた。そしてふわふわしたタオルで全身を丁寧に拭かれ、また抱き上げられてベッドの上に戻された。

 守山のベッドは変わらず煙草の混ざったいい香りがした。そして俺と守山の体はボディーソープの甘い香りに包まれていた。俺はもうすっかり身だけでなく心も委ねてしまっていて、守山の骨ばった指を体内に受け入れることに対して何の抵抗も感じなかった。大量のローションと指を使って中を広げられている間中ずっと、俺は守山の体にしがみつき、甘い香りのする首筋に顔をうずめていた。
 守山の指は拡張作業の傍ら俺の前立腺を巧みに探り当てて刺激してきたから、みっともない喘ぎ声を我慢するなんてことは到底無理な話だった。しかも俺には、もはやそうする気もなかった。俺は守山にされるがままに全身を明け渡し、男として少々いかがなものかと思うような声で喘ぎ、そして聞かれるがままに気持ちいいと答えたりもした。中を弄られながら反対の手で乳首の先端をすりすりと撫でられ、しかも舌を絡めて強く吸い上げられた時なんかは特に、もうどうにでもしてくれと言ってしまいたくなるほどだった。
 要するに俺は、正直に言ってしまえば守山に全てを奪われたくて仕方なかったのだ。守山の好きなように扱われたかったし、むしろもうめちゃくちゃにされてしまいたかったし、すっかり広げられて準備のできた部分も守山に侵入されることを待ち望んでいた。
 堪らず守山の名前を呼んだ。もちろん下の名前は知らないので名字である。すると守山はなんと、今まで見たこともなかったような慈愛に満ちた表情で微笑み、俺の額に軽く音を立てて唇をつけると、俺の下の名前を囁き返してきた。その途端俺の胸の奥の方が飛び跳ねるように疼き、そして同時に、指の抜かれた穴も待ちきれないとでも言いたげに疼いた。実際守山が避妊具を装着する短い時間も、それから俺の足を広げて濡れた穴にあてがい慣らすように何度か先端で表面をなぞっている間も、俺はひたすらに焦れ、早く入れてくれとそればかり考えていた。はたしてそのせいなのかどうかは分からないが、ようやく守山のものがゆっくり入り口を割り開き、ずるずると中を穿ち、そして根元まで埋め込まれた時、感極まってしまった俺は嬌声を上げながら射精してしまっていたのだった。

 それから守山に抱かれている間、俺はずっと奇妙な幸福感のようなものを感じていた。力強い腕に抱きしめられ体内を穿たれていると自分が何か小さくて弱くて頼りない生き物になったような気がして、さらに言えばその腕に守られているかのような安心感があった。優しく体や頭を撫でられたりキスをされたりするとまるで大事に扱われているような感覚を覚えもしたし、肉体的な快感も今まで知っていたものの比ではなかった。
 いつの間にか俺は盛大に喘ぎながら泣いていたわけだが、それはもちろん痛かったり悲しかったりしたからではなく、ただもう幸せで仕方なかったからだ。守山はそんな俺の内心を了解していたのか無様に焦ったり困惑したりすることはなく、俺の頬を濡らす涙を指先で拭ったり舌で舐めとったりした。そして俺はその優しい感触にますます涙を流した。

 守山が小さく呻いて俺の体内で射精するまでの間に、俺の腹は何度出したか分からないくらいに際限なく垂れ流していた自分の精液でぐっしょり濡れていた。守山が一体どんな顔で達するのか見てみたいとも思ったが、後から後から溢れ出していた涙のせいで何も見えなかった。だから残念な気持ちもあったが、それを上回る余韻のせいでぐったりとシーツに沈んでいると、また抱き上げられ風呂場まで運ばれた。そしてまた甘い香りのボディーソープで体の外も中も綺麗に洗い上げられた。快感の残った体を泡で撫でられるのだから当然平然としていられるはずはなくて、俺は再び盛大に喘がされた。風呂場の壁は俺の喘ぎ声や粘ついた水音を反響させ、ますます俺の興奮を煽った。俺は堪らず守山にすがりついてキスをねだり、結局そのままそこでもう一度抱かれた。
 間接照明以外を消されていた寝室は薄暗かったが、風呂場の明るい電球は余すことなく何もかも全てを照らし出していた。守山は俺に挿入する時俺を背中側から抱き上げたからおそらくみっともなく歪んでいるだろう顔を見られる心配はなかったが、俺も守山の顔を見ることはできなかった。代わりに、大きく開かされた自分の足と、その間で性懲りもなく勃ち上がっているものはよく見えた。守山と繋がっている部位はそれに隠れて見えなかったのは幸いと言えば幸いだったが、守山の手がそれをくすぐるように指先で触ったり、先端をくるくると撫でたり、かと思えば玉を柔らかく転がしたりするのはよく見えて、しかも見ないでいようとしてもつい自ら見てしまって、非常に恥ずかしかった。その羞恥が実は快感を増幅させていたことはできれば隠し通したかったが、その努力が成功していたのかどうかは正直分からない。
 俺の足を割り開く守山の足は俺よりも筋肉が発達していてたくましく、俺の乳首や腹や性器を撫で回す腕も筋張ってかつ日に焼けていて、その対比を見ていたらまた、俺は自分が小さくて弱くて頼りない生き物になってしまったような気がした。そして自分より大きくて強くてたくましい男に抱かれていることに、自分でも驚くほどの安心感と充足感を覚えた。最後に体内に直接射精された時には、ついさっきベッドで避妊具越しに出された時よりも深い、身も心も満たされるような幸福さえ感じて、それにつられるように俺もほとんど同時に絶頂に達していた。
 快感の余韻はそれからしばらく引かないまま、俺の体の奥の方に居座っていた。射精後に通常来るべき倦怠感というか虚しさというか、いわゆる賢者タイムも来なかった。その代わりに抗いきれような眠気に襲われた。だからもう一度改めて、今度はひどく事務的な手つきで守山が俺の体を洗っている間中、俺は守山のたくましい胸板にぐったりともたれかかって目を閉じていた。二言三言、耳元で何か囁かれたような気もしたが、いかんせん疲労や睡魔に襲われていたので適当な生返事をしながら片方の耳からもう片方の耳へと聞き流していた。しばらくして諦めたらしい守山は俺の体を包む甘い香りのする泡をシャワーで流すと、新しいタオルで俺の体を丁寧に拭き、そして俺をベッドへ連れ戻した。

 今度は守山は俺をベッドから追い出そうとはしなかった。もうほとんど眠りの淵にいる俺を横たえると俺の頭を撫で、頬に唇を落とし、背中をさすり、最終的には隣に寄り添うように横になると俺を抱きしめた。つまり俺は守山に抱かれた後、守山のベッドで守山に抱きしめられたまま心地良い眠りについたのだった。

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