▼ 01

*さらに後の話(Bくん視点)


 斉藤くんが変態なのは付き合う前から分かっていた。なにせ付き合う前どころか告白さえされていない頃からケツを舐めさせてくれなんて日常会話にぶっこんでくるような男なのだ。分からない方がおかしい。
 とは言えそんなちょっと変わった、という生ぬるい言葉で片付けていいものかどうかは分からないけどとにかく、そんなところも含めて俺は斉藤くんを好きになってしまったわけだし、実際付き合い始めてそういうことになってからも嫌だと言えば何かを無理強いされたりはしなかったから、まあたいした問題ではなかった。未だに会話の途中にちょいちょいケツネタを挟んではくるけど、とっくに慣れているから適当に受け流しておけば済む話だ。
 だから問題なのはそこではないし、斉藤くんがしつこいことでもない。しつこいってのは別に日常生活での話じゃなくてヤってる時というか前戯も含めての話なんだけど、なんかもうとにかくしつこいしねちっこいし時間的にも長いし、その間中何をしてるかっていうとひたすらずっと全身を舐められてる。キスから始まり首から肩から鎖骨から、他にも腕とか腹とか足とか、とにかく全部。ケツだけはかろうじて死守してるけど、多分それ以外で舐められてない所なんてせいぜい頭皮とか鼻の中とか、多分そんくらいしかないと思う。
 でもやっぱり、それも別にたいした問題ではなかった。未だかつて斉藤くん以外の人とこういう関係になったことがないからAV由来の知識しかないけど、舐めるくらいならそう珍しいことでもないんじゃないかとも思う。多分。じゃあ一体何が問題なのかと言えば、こんなことをバカ正直に暴露するのもどうかと思うんだけど、ぶっちゃければ斉藤くんの舌が正直ものすごく気持ちよくてしょうがないってことだ。
 斉藤くんの舌はヤバい。本当どうなってんのってくらい気持ちいい。構造の問題なのかテクニックの問題なのか、でも斉藤くんだってこの間まで童貞だったわけだしいきなり上手いはずもないからそうじゃなくて相性か何かの問題なのか、さっぱり分からないけどとにかく気持ちいい。どのくらい気持ちいいかと言うと、正直キスされるだけで気持ちよすぎて体の力が抜けてぐずぐずになってしまって、キスは3ヶ月それ以上は半年は待てとか自分で言っておいたくせに3ヶ月目に斉藤くんにされたキスでめろめろにされてしまった挙句その場で指もチンコも突っ込まれてしまったくらいには気持ちいい。それだけじゃなくて、前に興味本位で自分で触った時には何ともなかった乳首も斉藤くんに舐められたら立派な性感帯だし、たとえ一般的には性感帯でも何でもなさそうなところでもなぜかしっかり反応してしまう。もはや俺の体は弱点だらけと言ってもいい。
 つまり問題なのは、今や俺が斉藤くんの舌に完全にハマってしまっていて、今にも最後の砦まで破られそうだということなのだった。
 だってそりゃあ、気持ちよくてぐずぐずになって訳わかんなくなっちゃってる時に何か言われたら何でもかんでも頷いてしまいたくなっても仕方ないと思う。思うがしかし、さすがにやっぱりいくら訳わかんなくなっちゃってるとはいえ、そこまで捨て身にはなれなかった。俺が嫌だというと斉藤くんはしょんぼりした顔をするから微妙に心が痛むものの、やっぱり嫌なもんは嫌だ。

 というわけでつまるところ今に至るまで俺の最後の砦は破られていなかったわけだけど、ある日、
「頼む早乙女くん、そろそろ本当にアナルを舐めさせてもらえないだろうか。後生だから」
 だなんて真剣な顔で土下座されてしまえばさすがに、はいはいそのうち気が向いたらな、なんて生返事で済ませることもできなかった。
 いや別にいつも通り聞き流したっていいのだ。いいのだが、斉藤くんの表情が真剣を通り越して悲壮感すら漂わせていたのがいけなかった。無視しようとすればできないこともないとは思うけど、何だかんだ言っても俺はやっぱり斉藤くんのことが好きなわけで、つまりこれが惚れた弱味ってやつなのかもしれない。
「うーん……」
 だけど、やっぱり二つ返事で頷くこともできなかった。なにせ場所が場所だ。指もチンコも散々突っ込まれておいて何を今更とは思わなくもないけど、でも舐められるとなると話は別だろうとも思う。
 恥ずかしいというのはもちろんある。それから、斉藤くんがあまりにも俺のケツに謎の情熱を燃やしているもんだから実際にじっくり見たり舐めたりしたら何だこんなもんかとがっかりされるんじゃないかという心配も、正直ないと言えば嘘になる。だからヤる時はパンツを脱ぐ前に絶対電気は消すし、なんならうっかり色々されないように自分で準備してさっさと乗っかるくらいの時も多い。
 でもそんなことより何より、舐めるとなると衛生的にどうなのとも思うわけだ。
「あのさ斉藤くん、そこが本来何をするところなのかちゃんと分かってんのか」
 だから尋ねれば、土下座の体勢のまま顔だけ上げた斉藤くんは不思議そうに首を傾げた。
「何とは?」
「何って言うか……汚いだろ、やっぱり」
「何を言うんだ早乙女くん。早乙女くんの体に汚いところなんてないよ」
「いや、普通にあるけど」
 そりゃ確かにヤる時だって何もせずにそのまま突っ込んだりするわけじゃないし、ちゃんと事前に洗ったりなんやかんや準備はする。でも、だからって直接舐めてもいいほど綺麗かと言うとそれはどうなんだろうかと思うわけだ。あんまり深く突っ込むと生々しい話になるからあれなんだけど。
 とちょっと複雑な気持ちになりつつもしぶしぶ言った俺に、斉藤くんは平然と答えた。
「でも早乙女くんは天使だからトイレなんか行かないしなあ」
「……」
 いやそんなこと真顔で言われても。
 一体俺にどうしろと?
「斉藤くん俺に夢見すぎだろ……」
「冗談だよ。もちろんちゃんと早乙女くんのアナルが排泄に使われていることは理解してる」
「排泄言うな」
 いや正しいんだけど。確かに正しいんだけど。舐める舐めないの話をしてんだからもっとオブラートに包めないのかこいつ。
「でも僕はそれも含めて早乙女くんのアナルを愛しているし、じっくり見て舐めて味わいたいんだ」
「斉藤くん頭おかしい」
「おかしくないよ。僕はただ早乙女くんのアナルを舐めたいだけの一般人だし」
「だから一般人は俺のケツを舐めたがったりしねーし、いやそれより俺が言いたいのは汚いだろってことなんだけど」
「何を言うんだ早乙女くん。早乙女くんの体に汚いところなんてないよ」
「……」
 ダメだ、会話がループしてる。
「その台詞さっきも聞いたんだけど。普通にあるんだってば」
 2度目の拒否に、しかし斉藤くんはめげなかった。少しの間何か考えていたかと思えば、ぱっと目を輝かせて言ったのだ。
「じゃあ早乙女くん、百歩譲ってパンツの上から舐めるのはどうかな」
「え……」
 パンツの上って。それははたしていい考えなのか?
「それなら汚くないだろ。いや早乙女くんの体に汚いところなんてないんだが、早乙女くんもそれなら気にならないんじゃないかな」
「いや気にならないことはないけど」
「じゃあ直接舐められるのとパンツの上から舐められるのだったらどっちがいい?」
「そりゃ当然パンツの上からだな」
「だろ。じゃあ決まりだね」
「……ん?」
 満面の笑みを浮かべて足を崩した斉藤くんを見ながら俺は思った。何か上手いこと言いくるめられたんじゃないか、俺、と。

prev / next

[ back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -