▼ 03

パシりとその他大勢のセフレと、はたしてどちらが良かったんだろうかと考えてみる。
答えは出なかった。





決死の覚悟の告白から1週間。
俺は完全に由良に遊ばれていた。
それ持ってこいあれ買ってこいだなんてパシりならまだいい。
でも誘われたり触らせられたりして理性を試されるのは堪らない。

「琢磨ー、ご褒美のちゅー」
「だからいいって」
「せっかく僕が誘ってるのに。やっぱり琢磨ってイン……」
「はいはい。それより晩飯に間に合うように帰ってきてくれる方が嬉しいよ」
「……考えとく」

機嫌を損ねてしまったのかなんなのか、澄ました顔をつんと背けた由良は部屋を出て行ってしまった。
でもこれはいつものこと。
由良は俺とつきあっているわけじゃないんだから当然と言えば当然なんだけど、由良の男遊びは継続中だった。





何で誰とでも寝るの、と一度聞いてみたことがある。
ちなみに告白した後、つい最近のことだ。
由良は何でそんなこと聞くの、と言いたげにきょとんとした顔で、気持ちいいから、と言った。
どうやら愚問だったらしい。
でも手当たり次第に寝なくたって1人に絞るとか考えたことないの、と質問を続けると、由良はますます不思議そうな顔をした。
曰く、何で1人に絞んなきゃなんないの。
由良の考え方は、俺とは全く違う構造をしているらしい。

セックスは快楽のためにするもの。
相手が反応さえすればできるんだから、そこに面倒な感情なんていらない。
むらむらして、それを処理する。
どこまでも即物的で、効率的な由良。

俺は体を重ねるのは愛を伝え合う行為だと思っていた。
でも由良は笑った。

元々は生殖行為でしょ。
愛なんか関係ない、生物の本能だよ。

じゃあ男同士の行為はどうなるの、生殖なんかできないけど。
そう尋ねれば少し複雑そうな顔をした由良は、それでも笑みを作る。
快楽だって人間の本能だよ、と。
それじゃあ愛は本能じゃないのかとさらに食い下がると、由良は不機嫌そうな顔で俺を追い払った。
さすがにしつこすぎたらしい。反省。





その夜由良が帰ってきたのはやっぱり夜中だった。
日付が変わるぎりぎりに帰ってきたくせに、「帰ってきたけど」と自慢げな顔をする。
その不遜な態度に思わず笑ってしまった俺は、由良を風呂場に押し込んで作っておいた夕飯を温めた。

もしかしたら帰ってきてくれるかもしれないと思っていたから俺は腹をすかせたまま由良の帰宅を待っていて、だから並べた夕飯は2人分。
湯気を立てる夕飯を見下ろした由良は、何も言わずに食卓についた。

「もしかして食ってきた? 腹減ってない?」
「ううん、食べてない。お腹すいた」
「それなら良かった。でも飯も食わないでこんな時間まで何してたの?」
「延々セックス」
「……すげえスタミナ」

思わず呟くと由良が吹き出す。
いやしかし、冗談じゃなくて。
由良も由良だが相手も相手だ。
それとも由良相手なら俺も飯も食わずにガツガツしてしまうんだろうか。

でも、そんな時はきっと来ないんだろうけど。





皿いっぱいのシチューをぺろりと平らげた由良は、美味しいとお褒めの言葉をくれた。
皿を洗いながらにやにやしていると、甘えた調子で後ろから抱きついてくる。
何、と振り返れば上目遣いで、「琢磨、腰もんで。すごい痛い」だなんて言う。
そりゃそんなに酷使すればそうだろうね、と軽口を叩きながら由良をソファーに促すけれど、その実俺の心は締め付けられるように痛んでいる。
でも由良はそんな俺の様子も含めて楽しんでいるようだけど。

「うあーそこそこ。……あっ、そこ、もっとぉ……」

由良は普通にマッサージに気持ち良さそうな声を出していたくせに、途中からわざと喘ぎ声に切り替えた。
また試されている、と思いながら無心になろうと努力する。
頭の中で流すのはある日は延々と円周率、ある日はうろ覚えの般若心経、今日はクラシックのピアノ曲。

頭の中で鍵盤を叩きながら機械的にマッサージをしていると、由良は小さく舌打ちをしてソファーの上で仰向けになった。
大きくて真っ黒な瞳が俺を見上げる。

「ご褒美何がいい? フェラでもしてあげよっか?」
「由良とデートしたい」
「ああ、そういやそんなこと言ってたね」

明日は土曜日だ。
だからこそ深夜に飯を食うなんて胃にもたれそうなことをした後にこうやってだらだらしていられるわけで。
由良の1日俺にちょうだいとねだると、由良はうーん、と小さく唸った。

「でもデートって言ったって何するの? 外出許可なんか出ないのに」
「ショッピングモールに映画来てる。ラブストーリーとアクションと海外の戦争もの。どれが好き?」
「その3つならアクション1択でしょ」
「じゃあそれで。今日はゆっくり寝ていいよ。昼飯食って映画見よ」
「うーん……」
「なんなら俺が全部おごるし」

やっぱりだめかなと思いながら見つめ続けると、考え込むような顔で宙を睨んでいた由良は不意に俺の顔を見て、ふはっと笑った。
ぐりぐりと頭を撫でられてうろたえていると、楽しそうな顔をした由良が言う。

「いーよ、別に」
「えっ!」
「その代わりわんって言ってみて」
「……? わん」
「よくできました、ポチ」
「……」

もしかして俺はパシリですらなくただの犬だったんだろうか。

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