▼ 作戦B

深夜2時半、俺は隠密行動にふさわしい上下黒の服(ただのスウェットとも言う)に身を包んで辰巳の部屋に向かっていた。
メールで教えてもらった辰巳の部屋は俺の部屋より2階も上の、しかも反対端。教室も遠けりゃ寮の部屋も遠い。学園側の悪意を感じる…と思ったけどもまあ普通に考えてそんなわきゃないし、休日前とはいえ2時半という遅い時間帯だからさすがに凛ちゃんの妨害も入らずに目的地に着いた。

深夜にチャイムは同室者に迷惑かなーと思いつつ携帯を取り出せば、電話をかけるよりも一足先に扉が開いた。タイミング良く出迎えてくれた辰巳に、玄関に引っ張りこまれるなり熱烈なキスをされる。
抱き合って、扉に寄っかかったまんまずるずる座り込んで、貪りあうようなキス。
辰巳の腕が俺の腰をぐいっと抱き寄せて俺も辰巳の後頭部掴んで引き寄せて、なんかのしかかられてるような体勢が気にならないでもないけど…

あ、本題それだった。

「辰巳」
「ん?」
「あの、あのね、…うわっ!」

顔を離して話しだそうとしていた俺の首筋に顔を埋めた辰巳が、突然そこに噛み付いてきた。噛み付くって言っても甘噛み程度だけど、同時にいつの間にか腰を撫でていた手がスウェットん中に滑り込んできて、下着の上から尻を……

「ちょ、ちょいちょい! ストッープ!」
「ん…悪い。本当はちゃんと凛と別れてからにしようと思ってたんだけど、もう我慢の限界だ」
「ちがっ、違う! 陣くん達から聞いてねぇの!?」
「陣? 貴史もタチだって話か? …いや違う、俺は何も聞いてない」
「そう! そうだよ聞いてんじゃん…ってうわあ! 穴刺激すんな!」

布越しに怪しい動きでぐりぐりしてくる指を体をひねって避けつつ叫ぶと、辰巳は真面目な顔で俺を見つめた。いやそんな真面目な顔されても俺の性癖は覆んないから! 俺だって辰巳に突っ込みてえんだから!

「まあ確かに聞いた、けど。俺は貴史を抱きたいんだ」
「いや俺も! 俺もだから! ちょっと落ち着いて話し合おーよ! あっ、てかそうだ、そうそう、俺いいこと思いついたんだって! だからぐりぐりすんのやめてえええ!」



玄関先でぎゃあぎゃあと騒いでいたら、実は辰巳の同室者でもあったらしい桜井くんが眠そうな顔で出て来た。「うるせーぞー」と怒られたので、辰巳の部屋に移動してベッドの上で向かい合う。

ようやく落ち着いたらしい辰巳が「いいことって何?」と問いかけてきたので、俺は油断大敵、と微妙に距離を取りつつ、なんとなく正座してから切り出した。

「あのね、辰巳がネコに目覚めれば万事解決、っていうか一石二鳥だと思うんだよね」
「いやそれは……一応聞くけど何が一石二鳥なんだ」
「うん、凛ちゃんバリネコじゃん。だから辰巳もネコになったらさすがに諦めるでしょ」
「……もう1つのメリットは?」
「俺が辰巳に突っ込める!」

いい考えでしょ? と身を乗り出せば、辰巳は全く間をおかずに「却下」とため息をついた。あれ、あれあれ、何その呆れた目は!

「え、ダメ?」
「凛に関してはそれもいいかもしれないけど、それなら嘘をつけばいいだけの話だろ。わざわざ本当に俺が掘られなくたって」
「ウソハイケナイトオモイマース!」
「なんだよその片言。というか俺と貴史なら誰がどう見たって俺がタチだろう」
「いやいや! 見た目の問題じゃないでしょ!? 俺んとこの部長なんて桜井くんよりはるかにガタイよくてあだ名マッチョ先輩だけど凛ちゃんばりのバリネコだよ!?」
「マッチョ…、いや、うんまあそういう例もあるかもしれないけど」
「でしょ!? だから辰巳が俺に抱かれたって何もおかしいことないし、つーか初めて見た時から俺は辰巳抱くことばっかり考えてたってのに!」
「それは俺もだ。俺は譲らないぞ」
「……」
「……」

無言で睨み合った俺達は、どちらからともなく目を逸らして各々ため息をついた。俺達こんな時間にこんなこと真面目に言い争って、一体何やってんだろう。いやそりゃ大事なことだけども。大事なことだけども! でもお互い意地はってたって話が進まないよなーと思った俺は、しぶしぶ妥協策を出した。
さっきの案が俺にとってはベストだったんだけども、つうかこれは俺も痛手を追うから本当は嫌なんだけども。

「…じゃあ交代交代でする?」
「それは…、……いや、やっぱりそれは……」
「もー! 意地はってたってしょうがないじゃんかー!」
「それはそうだけど…いや、よし分かった。じゃあ勝負しよう、貴史」
「勝負?」

俺の提案に額を押さえてものすごく苦悩する顔をしていた辰巳は、しばらくしてから顔をぱっと上げて俺をきらきらした目で見つめた。正直可愛い、んだけどなんか嫌な予感がするような。

「先にイった方がネコってのでどうだ」
「……」

辰巳はすごく「いいこと思いつきました」って顔してるけど、全然いいことじゃない。
つーか提案の内容はそれはそれでアリかもしんないけど、それ絶対あれじゃん。俺が早いって凛ちゃんが言ったからじゃん!
でも不満を視線にこめまくって「それ俺不利じゃん」と睨んだら、辰巳はにやっと笑って俺を挑発してきた。

「やっぱり早いのか」
「……!」
「自信ない? まあ俺の不戦勝でもいいけど」
「……!! な、ないわけないじゃん! だって俺別に早くないし!」
「よし、じゃあ決まりだな」
「望むところよ! ……って、あれ?」

もしかして俺、ちょっとしくじったかな。

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