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「ん、んッ、ん、ぐ、……ッ」
 熱い。硬い。先端が指では届かなかった未知の部分を押し広げて進む感触に、腰の奥のあたりがじわじわと重くなり始める。
「聡介……っ、う、ん、ーーッ」
「あー……すごい、夢みたい……」
 夢なら覚めろと思うが、もはや何か言おうにも言葉にならない。やばい死ぬかも、と思った時、ようやく聡介の動きが止まった。同時に尻にふわりとした感触が触れ、あーついに全部入っちまったのかーとぼんやり思う。
「柾くん……大丈夫?」
 やっぱり聡介もキツかったのか、はたまた最早イきそうなのか、よく分からないが頭上から息切れしているような掠れた声が降ってきた。
 大丈夫かどうかと言えば、大丈夫ではない。指で弄られていた時はそりゃあ気持ちよかったが、今は別段快感もないし、なんというか圧迫感が大きすぎる。が、ここまで来て抜けというのも同じ男として酷なような気もするし、今更聡介を説得するよりはいっそ好きにやらせてやってさっさと終わらせた方が早そうにも思える。が、俺の尻は果たして聡介に動かれても大丈夫なのだろうか。
 俺は心の中で自らの尻に大丈夫なのかと尋ねた。尻は少し考えた後、まあ大丈夫だろうと結論を出した。
「っ、いーから、早くうごけ……ッ」
 聡介に答えを返しながら、あっこれではねだってるようでなんか違うな、と思ったが、しかし今更だった。ぎゅっと背中に抱きつかれ、体勢的に見えなくても聡介が嬉しそうな顔をしたのが分かった。
「柾くん大好き……」
 感極まったような声と共に、きつく抱きしめられたままで体内の異物が動き出す。ずるりと入り口付近まで抜け落ちたそれは、粘膜を擦り上げながら再びゆっくりと中へ押し進んでくる。何度も何度も、まるで俺の体に聡介の形を覚えこませようとするかのように。
 我慢できないほど痛いわけではないが、とにかく味わったことのないような異物感と圧迫感で腹が苦しい。というより尻が苦しい。色気も何もない表現をするならば、ケツが広がっている、それに尽きる。なぜこれで世のネコ達はあんなにも気持ちよさそうにあんあん喘げるのだろうか。とにかく衝撃に耐えるのに精一杯で、うーとかぐーとかのうめき声しか出ないんだが。
 と、思っていたのだが。
 聡介がふと上体を起こして俺の腰を掴み直し、それに伴って挿入の角度がやや変わった時。ぐちゅりと生々しい音を立てて腰を打ちつけられた途端、俺の腰が勝手にびくんと跳ね、同時に喉からはあられもない、まさに喘ぎ声と呼んで差し支えないような声がもれた。はっと口元を押さえるが時既に遅し。ぴたりと動きを止めた聡介が、期待のこもったような声で問いかけてくる。
「もしかしてこれ?」
 咄嗟にぶるぶると首を横に振るが、そのまま同じところをもう一突き。その途端、ぶわりと全身に鳥肌が立った。
「あ、あッ、まて、頼むからそこ……っ」
「ん、ここ?」
「ひ、あぁっ、ちがっ、あ、やめ、それっ、んぁっ!」
 腰を小刻みに揺すられ同じところを擦り上げられる度、喉から押し出されるように今まで出したことのないような熱く上擦った声が漏れる。我ながら聞くに耐えないしそれを聡介に聞かれていると思うといっそ殺せと喚きたくなったが、しかしそんな羞恥を感じている余裕もほとんどなかった。なにせ、気持ちいいのだ。どこがって、聡介に突かれている部分、つまりケツが。正直、今までしてきたどんなセックスよりはるかに気持ちよすぎる。前立腺、おそるべし。
 だが、気持ちいいとは言ってもずっと感じていたいような甘ったるい快感ではない。上手い表現が見つからないが、居ても立ってもいられなくなるような、気持ちいいけど早く解放されたいような、もうだめゆるしてぇ!と泣き叫びたくなるような、そんな感じでもある。
「あ、ぁ、あっ……、そう、すけ、も、ムリっ」
「ん、気持ちいい……?」
「うぁ、あ、あっ、は、しぬ……っ、そこばっか……!」
「ああ、こっちも?」
 再び後ろから抱きしめるように回された聡介の両手が、俺の乳首をつまんだ。別にそこを触ってほしかったわけではないしどうせ触るならむしろいつの間にやら完全に臨戦態勢のまま放置されている俺の息子を触ってほしいのだが、前立腺らしき場所を強く押し潰されたままくにくにと乳首を転がされれば、今までただの無意味な飾りだとばかり思っていたそこも立派な性感帯だということに気づく。
「ひ、あ、あッ、あぁ……っ!」
 恥ずかしい声を抑えようと一応努力はしていたが、その余裕も完全に消えた。頭が真っ白になるとか理性が飛ぶとかというのはこういうことを言うのだろうか。頭の中がぼんやりして、触れられているところが全部むずむずじくじくと疼いて、与えられる快感以外のことは何も考えられなくなる。脇腹だとか内腿だとか、普段ならくすぐったいはずのところも今や撫でられればどこもかしこも気持ちよくて、しかもその快感はどんどん大きくなるというのにもっともっととさらにねだりたくなってしまう。
「あー……柾くんかわいい……」
 耳に直接吹きこまれた、平常心ならばアホかと笑い飛ばすような言葉にまで、何というか甘ったるい気持ちになる。男に抱かれて甘い言葉を吐かれて甘やかされて、まるで自分が聡介のものになってしまったかのように、しかもそれがまるでものすごく幸せなことのように思えて、胸の奥がじわりと熱くなって、
「聡介……っ」
 どうにも堪らなくなって首を無理矢理捻って振り返れば、聡介は眉をへにゃりと下げ、泣きそうな顔で柔らかく微笑んだ。覆いかぶさるような体勢で落とされた唇に抵抗する気は最早全くなかった。むしろ自分から舌を絡めに行くほど、俺の体は聡介からのキスを喜んでいた。息ができなくなるような深いキスの隙間に聡介が熱に浮かされたような温度で繰り返す好き好き大好きという言葉も、同じ温度で俺の全身に染み渡る。
 合間に再び体をひっくり返されて正面から抱きしめられ、聡介の熱い舌に言葉も呼吸も奪われながら後ろを突かれ、同時に前も擦られ、比喩ではなく本当に頭の中がぼんやりとかすみ。
 目の前の体にすがりついて追い上げられるように達した俺の背中を撫でながら聡介は、目を細めて幸せそうに笑った。


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