▼ 04

狼が誰かを気に入るのは別に初めてのことではない。
僕には理解できないけれど、彼と惹かれ合う性癖の持ち主、つまりいじめられ虐げられて悦ぶマゾヒストという人種は、この外界から閉ざされた学園内にもどうやら一定数はいるらしいのだ。

けれど今回は、今までとはどうやら違うらしい。
熱しやすいが冷めやすく、すぐに飽きてしまうはずの狼は、羊くんに限っては2週間経っても毎日部屋に連れ帰ってきていた。

それに伴って、僕の生活も少し変化した。
夕飯には狼が適当に並べた羊くんの嫌いそうな料理をつくり、逆に朝は羊くんの好物を食卓に上げる。
そして夜は、先輩を訪ねることが増えた。

「まーた逃げてきた」

その日も一通メールを入れてから部屋に行くと、先輩は可笑しそうに目を細めて僕を迎え入れた。

「迷惑でしたか?」

もう日付も変わっているので眠っているかもしれない同室者を気遣い小声で尋ねると、先輩は小首を傾げて笑う。

「白々しいなあ。そんなこと思ってもないくせに」
「そんなことないですよ。迷惑なら帰りますけど」
「ふふ、分かってるくせに」

電灯を落とし、奥の部屋の窓からからもれる月明かりしかない暗い廊下に、先輩の首筋が白く浮かび上がっている。
狼だったら噛みつきでもするのだろうか、と思いながら僕はそこにそっと指を這わせた。





疲れた体を引きずって部屋に帰れば、バスルームにつながる脱衣所の扉から光が漏れていた。
また狼の消し忘れか、と覗きこめば、しかし違ったらしい。
白い床には羊くんがうずくまっていたのだ。

「あ、ごめん」

と、つい謝り扉を閉めてしまったのは、彼が一糸纏わぬ裸体だったからだ。
けれどその瞬間に僕の目が捉えてしまった背中は、無数の傷と色鮮やかな痣で彩られていた。
一瞬考え、結局もう一度扉を開いた。

「羊くん」

呼びかけると、まだうずくまったままだった彼はのろのろと振り返り、目を丸くした。

「烏さん……」
「手当てしようか」

救急箱はどこにしまったっけ、と考えながら手を招く。
けれどその途端、羊くんの足の間から白いものが伝っているのが目に入った。
彼もそれに気づいたのだろう、恥じらうように目を伏せ、小さく首を横に振る。

「おれ、シャワー浴びないと」

そう言いつつも立ち上がろうとしないのは、それだけ疲れているからか。
そうした張本人は一体どこに、と思ったが、部屋から出てくる気配はない。
おそらく出すだけ出してさっさと眠ってしまったのだろう。
ため息をつくと、羊くんの肩がぴくりと跳ねる。

「まったく、仕方ないやつだね。狼は」
「え、あ、狼さん……?」
「どうせさっさと寝ちゃったんでしょ? おいで、洗ってあげるから」
「えっ、……え?」

戸惑う羊くんを抱き上げると、その小さく華奢な身体は、思っていたより軽く、頼りなかった。





どうせシャワーを浴びるつもりではあったけれど、さすがに羊くんと一緒に風呂に入るというわけにもいかない。
服が濡れてしまうのは諦めて、着衣のままバスルームに踏み込んだ。
くたりとした身体を壁を向いて立たせ、少しぬるめの温度に調節してシャワーを浴びせると、羊くんは小さく呻いた。
せっかくだから石鹸で洗ってあげたいところだけれど、傷の具合と今の様子からしておそらく沁みるだろう。
手早く済ませることにしてシャワーを手にしゃがみこむと、羊くんは驚いたように振り向いた。

「烏さん……?」
「ちょっとだけ我慢して。かき出すから」
「えっ、待っ、そんなことまでしてもらうわけには……っ」

顔を赤くした羊くんは何かごちゃごちゃと言い募り始めたけれど、特に聞く気はなかった。
なにせ僕も疲れているし、明日も平日なので早く寝たいのだ。
だから性急に羊くんの中に指を滑り込ませると、

「っ、あ……!」

一つ鳴いた羊くんは、身体をびくんと跳ねさせた。

「あ、ごめん。痛かった? 」
「っ……、ふ、ぅ……っ」
「うーん、切れてはないみたいだけど」
「ん……っ、あ、烏さ……っ」
「ん? 大丈夫?」

一旦シャワーを脇に置き、空いた手で割れ目を開いてみたけれど、少なくとも表面は傷ついた様子はない。
指を入れてみた感触からしても、柔らかく開いた中には精液と共に大量のローションも仕込まれているようだ。
さすがに狼もそこまで鬼畜ではないらしい。
しかし、それならなぜ羊くんはこんなに苦しそうに鳴くのだろう、とふと見上げて、ようやく気づいた。
壁に縋り付くように立っているせいではっきりとは見えないけれど、どうやら羊くんのそれは形を変え始めているようだ。
ああ、そういうことか。思わず呟けば、羊くんはひゅっと喉を鳴らした。

「ごっ、ごめんなさい……」
「別に謝らなくたっていいけど。生理現象みたいなものだし」
「でも……っ、すいません、こんな、っ、みっともない……」
「でもまあ、痛がられるよりいいよ。僕はSじゃないし」

宥めるつもりで声をかけながら指を2本に増やし入り口を開くと、その間からどろりと白い液体が流れ出した。狼の精液だ。
それを目にした途端、ふと意地悪な気持ちになってしまったのは何故なのだろう。
僕にはできないことを羊くんがしているからなのか、それともSではないという僕の自己分析が間違っていたのか。
後者だとは思いたくないが、だからと言って前者だとも思いたくはない。
けれど気がついたら僕は、羊くんの後孔を白く濡らすそれに舌を這わせていた。

「うあっ、あ、えっ!?」

途端、羊くんの腰が大きく跳ねた。反射のように僕の頭に手が伸ばされたけれど、力なく震えたその手では抵抗にもなりはしない。
気にせず多少力を強めて柔らかな肉を開き、中に舌を差し込む。
独特の青臭い味と、それに絡んだローションの人工的な生温い感触。
音を立ててすすり出せば、羊くんの足はがくがくと震え、今にも崩れそうになる。

「あ、あっ……! や、あ、ああぁっ!」
「ダメだよ、ちゃんと立ってて」
「んあっ、あ、むり、むりです……っ! だめ、や、あっ!」

目の前の臀部を押し上げることで支えようとしたけれど、結局羊くんは壁にすがりついたままずるずると崩れ落ちた。まあ仕方ないか、と思いつつうつ伏せの体勢から腰だけ上げさせ、改めて顔を埋める。ひくひくと震える赤く潤んだ粘膜は、僕の舌を再び中に引き込んだ。

「あ、ひあっ、あっ、」

バスルームに断続的に響く喘ぎ声の中、頭の片隅で僕は一体何をしているんだろうとぼんやり考えた。
けれど、考えたって仕方がない。
この行動の理由が狼への恋情から来ているのか、それとも羊くんへの嫉妬から来ているのか、分かったところでどうしようもない。
だから考える代わりに舌を動かし、中に溜められた精液を集めていく。
ごくりと飲み込めば、どろりとしたそれは喉にひっかかるようにこびりついた。

「ひ、あっ、あっ――、や、だめ、そこ、あっ!」

悲痛ながらも甘く掠れた泣き声を無視してあらかた中を綺麗にしたところで、舌の代わりに指を差し入れた。シャワーを引き寄せ、お湯を流し込みながら体内を探る。
羊くんの前立腺は狼に苛められたのか、ぷくりと腫れていたからすぐに分かった。
上げた腰の下に足を差し入れて支えてやりながら、2本に増やした指を出し入れし、そこを刺激する。
羊くんは、その度床に顔を擦り付けて切羽詰まったように鳴いた。
そのまましばらく、その声の調子がふと変わる。

「っあ、ふ、んっ、も、あ、あっ……!」

見下ろせば、身体を支えようとして支えきれていなかった手が、すっかり形を変えてしまっているそこに伸ばされていた。震えながらそれを握った右手が、ゆっくり上下に動き出す。羊くん、と声をかければ、彼はそのまま小動物のような潤んだ瞳で僕を見上げた。

「出そう?」
「あ……っ、はい……」
「出していいの?」
「……え?」

一旦手を止め、困惑した羊くんに微笑みかける。

「僕は狼じゃないけど。僕にイかされちゃってもいいの?」
「……っ!」

僕の言葉に青ざめた羊くんは、ぴたりと動きを止めた。それを見て中の洗浄を再開させたのは、我ながら意地が悪かったかもしれない。
羊くんを苛めたがる狼のことをもう責められない。

「く、っ、ん、あ、あ……っ」

羊くんの右手は、どうやら今度は反対に、今にも達しそうなそれの根元をぎゅっと握りしめているらしい。必死に唇を噛んで声をころし、絶頂を抑え、目に涙を溜めて、ひたすら身体を縮こまらせている。
可愛いな、と思った。
ひたすら健気で従順で、かわいそうで、かわいい。

「あっ、うーーっ、だめ、だめっ、烏さん……!」
「うん?」
「むり、も、イっちゃう……!」

実はとっくに洗浄は終わっていた。
お湯を止めてシャワーを放り出し、羊くんの髪を撫でてやる。
目を閉じ肩で息をしていた彼は、その感触にほっとしたように僕を見上げた。
そこでだめ押しのように前立腺を押し上げてあげれば、

「う、あ、あっーー!」

根元を自分で押さえつけたまま、羊くんは射精を伴わない絶頂を迎えた。

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