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香坂と末吉とは、実は短い付き合いではない。初対面は既に記憶が薄れている十数年前、当時住んでいた団地で隣同士だった頃のことだ。そこから互いの親が一軒家を建てて引っ越したのを機に中学は離れたが、偏差値が県下一低く不良の吹き溜まりと呼ばれる今の高校で再会した。およそ二年前のことだった。

そこから二人が旧交を温めなかったのは、それぞれが中学時代につるんでいた上級生同士が犬猿の仲だったからという、至極単純な理由からに他ならない。入学早々否応無しに別々の派閥に組み込まれた二人は時の流れと共にいつしか敵対するようになり、そしてそのままそれぞれの派のトップになって今に至る。

だから香坂は、末吉本人に対して何らかの恨みつらみがあるわけでは全くない。 だが同時に、昔馴染みだからと言って特別な想いがあるわけでもなかった。むしろ、何かと反発し合うこの口も目つきも悪い男を、どちらかと言うと鬱陶しく思っていたのだ。それがどうしたことだろうか。きっかけはあの不愉快な世界でのことだったとはいえ、そして酒の勢いもあったとはいえ、今こうして犬猿の仲であるはずの相手と抱き合い、体を重ねている。それどころか、自分のものを受け入れすがりつくように震えているこの男に対して、ひどく興奮し、あまつさえ胸を高鳴らせているのだ。

これが恋か愛かと聞かれればさすがに首を捻らざるをえない。この感情は、例えば元彼女である優香と付き合いだした当初のような、ふわふわと浮ついたものではない。だが、では性欲のみかと聞かれれば、それもまた頷くには躊躇する。単なる性欲と言い切ってしまうには、末吉に対する思いは複雑すぎる。

末吉の息が調うのを待つ間そんなことをつらつらと考えていた香坂は、しかしやがて我慢の限界に達した。耳元で乱れる吐息と、しがみつかれた腕の体温、そして強請るように締め付けてくる粘膜の感触。眉を寄せ低く唸った香坂は、末吉の身体を抱き締めなおし、ついに口を開いた。

「……おい」
「ん、ぁ……何……」
「もう動いていいか」

声音が切羽詰まっているのが自分でも分かる。だが取り繕うだけの気力はないし、それを恥ずかしいと思う余裕さえなかった。そもそも末吉の声は、香坂以上に震えて切羽詰まっている。もっとも彼の場合、欲を我慢しているわけではなく単に痛みや違和感に耐えているだけなのだろうが。その証拠に、香坂の胸に顔を埋めたまま末吉はふるふると首を横に振った。

「無理……絶対動くな」
「あ? 無茶言うな」

自ら尋ねたくせに返答を無視した香坂は、末吉の両足を抱え直し、ゆっくり腰を引いた。多少は馴れてきたようだが未だ中は狭く、さすがに自由には動けない。局部にかかる圧に眉を寄せつつ慎重に、一旦埋め込んだものを引き抜いていく。と、首に回されていた手がするりと抜け落ち、香坂の肩を慌てたように掴んだ。今まで抱いてきた女達とは違う、男の渾身の握力に、欲に負けかけていた香坂もさすがに動きを止めた。

「おい、そんなに痛えのか」

肩に走る痛みに顔をしかめながら、末吉の顔を覗き込む。きつく閉じた目に涙を滲ませていた末吉は、けれどかすかに首を横に振った。

「違、っけど……」
「は?痛いんじゃねえの?」
「こんな、ちが、こんなんじゃなか、ったのに……っ」

途切れ途切れに発せられる言葉に、香坂は再び眉を寄せた。あの頃とは違う、かと言って痛いわけではない。まるで謎かけのようなそれに首を捻り、それからはたと思いつく。

「もしかして、すげえイイのかよ?」
「……」

返答はなかった。けれどどこか悔しそうに噛まれた唇の白さが、その答えだった。香坂は、先程抜きかけた分だけ腰を打ちつけた。

「あ、あッ……!」

その不意打ちに、末吉の口からは官能的に上擦った声が飛び出た。もう疑いようもなかった。細い腰に腕を回して抱き締めなおす。末吉も、諦めたかのように再び香坂の首に手を回してきた。それだけでなく、そのまま顔を寄せられ、唇をぺろりと舐められる。うっすら開かれた瞼の奥、濡れた瞳と視線が交錯した瞬間、かろうじて残されていた香坂の理性は根こそぎどこかへ飛んでいった。

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