▼ 3

3年の知り合い誰がいたかなー、先輩ってのがイケメンならイケメンに聞いた方がいいな!
と意気込みながら携帯を開いた慎二さんは、しかしそこでしばらく躊躇していた。どうやら自分でつけた心当たりが他ならぬ副会長だったようなのだが、電話をかけるのに勇気がいったらしい。
結局共通の友人を通して連絡を取るという回りくどい方法をとった結果、現在慎二さんの部屋には以前食堂で一瞬だけ対面した生徒会のイケメン3人衆が勢ぞろいしていた。

位置どりは部屋の入り口に近い隅っこで小さくなっているのが俺、床に置かれた小さなテーブルを挟んで向かいの床で寛いでいるのが会計と書記だという2年生らしき2人。そして、ベッドの上に慎二さんと副会長が並んで座っている。

「えーっと、そういうことなんで美波になんか心当たりないかなっつう話なんだけど……」

俺の代わりにかいつまんで事情を説明してくれた慎二さんがそわそわしなから目線をきょろきょろ泳がせているのは、おそらく副会長との距離が近いせいだ。あからさまに意識しすぎているのが俺にも分かるくらいだから、隣にいる副会長にも当然伝わっているのだろう。幸せそうににこにこしている副会長に慎二さんが余計そわそわするという悪循環に陥っているように見える。

「心当たりって言ってもねー。そんだけじゃ分かんないよね。もっと外見的な特徴とか教えてもらわないとさあ」

慎二さん以外視界に入りません、といった様子の副会長の代わりに口を開いたのは、書記の人だった。イケメンというより美少年とでもいえばいいのか、むしろなぜ男子校に女の子が混ざっているのかと思うような可愛らしい顔をしている人で、ただしものすごく不機嫌そうだ。頬杖をついてクッキーをかじりながら、むすっとベッドの上を睨んでいる。ということはこの人も慎二さんのことが好きだったりするんだろうか。それとも副会長か?

そして、その書記に「そうだな」と同意を示したのが、もう1人の会計の人。こちらは可愛い系の書記や小島所有の写メ通り美人系の副会長とは違って男らしいイケメン。ただし、どちらかと言えばやや彫りが深めでくっきりした顔立ちの先輩とは違って、こちらはあっさりしたしょうゆ顔の男前だ。そして、不機嫌ではないが持ちこんできたらしい川釣り雑誌に夢中。話は聞いてくれているらしいが、ちょっと変わった人なんだろうか。そんな2人の言葉を受け、居心地の悪そうな慎二さんは俺に話を振ってきた。

「じゃあ、ってことだから宏樹もうちょい詳しく」
「あ、はい……」

いつの間にやら副会長に握られている慎二さんの手から視線を剥がし、俺は先輩のことを思い出そうとした。
だが、

「ええと、身長は多分……185くらいで、黒髪で、うーん、髪型は襟足と耳の辺りがちょっと長いオシャレな感じの……」

頭の中では完璧に再現できるのだが、それを言葉で表そうとすると非常に難しい。苦心しながら紡いだ言葉は、「分かんなーい」と書記にばっさり切り捨てられた。

「他にはなんかないの。趣味とか」

と雑誌をめくりながらも助け船を出してくれた会計の言葉を受けて再び考える。

「えーと、なんかB級っぽいミステリーが好きで、本人いわく球技音痴で、あ、あと猫というか小動物系が好きで、そうだペットを飼いたかったけど弟が体弱かったから無理だったって。それで4男1女の次男だって言ってました。この前ようやく妹が生まれたって」

しかしこんなんで分かるだろうか、と思った俺の言葉は、

「B級ミステリー?」
「球技音痴?」
「4男1女?」

予想外に反応が良かった。

「周防さんのことかな」
「だよねー。僕もそう思う。西園寺さんどう思います?」
「おそらくそうでしょうね。変な本ばかり読んでて球技音痴で5人兄妹の次男なんてそうそういないと思いますけど」

俺の断片的な情報で、どうやら3人は同じ人物を思い浮かべたらしい。意外とあっけなく分かるもんだ、と思うものの、本当にそのスオウさんという人が先輩の正体なのだろうか。

「でもさー、周防さんだったら顏と名前が一致しないとかありえる?」
「うーん、それは確かに。入学式の時挨拶してたよね」
「でも目が悪いとか色々事情があるかもしれないじゃないですか」

かと思えば何やらごにょごにょと相談が始まった。生憎視力は悪くないのだが、いかんせん寝坊したせいで入学式には出ていない。しかし、先輩がそのスオウさんなる人物だとしたら、なぜ入学式で挨拶したりしているのだろうか。
1人首を捻っていると、同じように首を傾げていた慎二さんが口を開いた。

「なースオウって誰だっけ? 元哉?」
「ええ、そうですよ」
「ああやっぱり? んじゃここでごちゃごちゃ喋ってないで電話でもして聞いてみれば良くね? 宏樹のこと知ってるかって」
「あっ確かにそうだねー! 慎二頭いい!」
「な、俺もたまにはいいこと言うな。じゃあ俺電話すんね。えーと」
「あ、いえ僕がしますよ」

と、携帯を手にした慎二さんを副会長が止める。

「え? 何で?」
「何でというか、まあ……」
「ん?」

顔をやや赤らめて言葉を濁した副会長が、スオウさんなる人物と慎二さんを喋らせたくないことは明白だった。つまりやきもち。
遅れてそれに気づいた慎二さんが、恥ずかしくそうに視線を逸らす。

1人状況についていけていない俺と呆れたようなに肩をすくめる書記、そして苦笑する会計の前で、青春の一場面が着々と進行していた。

prev / next

[ back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -