「松姫(まつき)、どうしたの?」
一松が松姫(まつき)のこととなると豹変するのは、松野家内では当たり前のことなんだけれど。車のドアを開けて第一声がそれだと、流石の俺でも傷付くんだよ、一松。なんて、今まで幾度となく言ってきたけど変わる気なんて更々ないみたいだから、俺ももう何も言うまい。 「ちょっと疲れちゃったみたい」簡潔にそう言ったけれど、それだけでも状況は伝わったらしく、2人によって手際良く準備された後部座席の睡眠スペースに、既に力尽きてしまった松姫(まつき)をそっと寝かす。俺はと言えば、いつの間にか反対側のドアから後部座席に乗り込んでいたトド松が当たり前のように松姫(まつき)の隣を陣取るから、強制的に助手席に座ることになった。
「こんな遠くまで悪いな、一松。疲れたら休んでいいから。」 「別に、大丈夫。」 「トド松もサンキュー。」 「僕は何もしてないよ。おそ松兄さんこそ、お疲れ様。」 「おう。」
「これ、飲んでいいよ。」と途中で買ってきたのであろう飲み物を差し出された俺は、素直にそれを受け取って乾いた喉に流し込んだ。さっきまではあまり気にならなかったけれど、知らず知らずのうちに乾ききっていた喉が、流し込まれた潤いをどんどん吸収していくのがわかる。 それと同時に、後ろの席で眠る松姫(まつき)も同じなんじゃないか、なんて考えが頭を過ぎって。起こすのは可哀想だが、たまに引き起こる空咳に比べれば断然マシだろうと、その旨をそのままトド松に伝える。そうすればすぐにトド松に起こされた松姫(まつき)は、少しぼんやりとして、それから「車か、」と自己解決したらしかった。
「松姫(まつき)、おはよ。体調どう?」
いつものドライモンスターはどこへやら、本能剥き出しで優しさ全開の甘ったるいトド松の声が松姫(まつき)に向けられる。兄弟は似るっていうけど、こんな所で似なくてもいいのに。 あーあ、さっきまでは俺だけの松姫(まつき)だったのに、つまんねーの。 口には出さないけれど、そんな気持ちで眼前の道路を只管見続けていれば、そんな俺の気持ちを見透かしたように一松が「残念だね」と笑うからちょっとムカついた。……が、兄弟が似るという事で言うならば、忘れてはいけないのは松姫(まつき)も兄弟だということ。
「……とどまつ、」 「ん、なーに?具合悪い?」 「……おなか、」 「おなか?」 「……すいたから、ゼリー、買って?」
そういえば、トド松のあざとさは松姫(まつき)譲りだったな、なんて。
(160710)
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