「ただいまー。」 「ただいま、ブラザー!」
帰宅するといつものようにダラダラしている兄弟達から「おかえり」と暢気な声が返ってきた。カラ松の「ブラザー」発言については、今更誰も触れない。慣れてしまったのか、今更突っ込む気にもなれないのか、それとも両方か。 「先に着替えて来いよ。映画借りて来たからみんなで見ようぜ。」なんておそ松のワクワクした顔があたし達に向けられて、あたしがそれに頷けば、カラ松もフッと笑った。ブラザーと感動を共有す、そこまで言いかけて、チョロ松が「はいはいわかったから早くしてよ。」と。扱いの雑さは通常運転である。
「カラ松、着替えて来よう。」 「…………、」 「……カラ松?」 「えっ?あ、どうかしたか?」 「……ううん、早く着替えよう?」 「あ、あぁ、そうだな。」
カラ松はそう言ってニコリと笑うけれど、ほんの一瞬、とても悲しそうな顔をしたのをあたしは見逃さなかった。素直に寂しいのだ、構ってほしいのだ、そう口に出せばいいものをこの次男は。優しすぎるがあまり遠回りしてしまって、それが裏目に出ているなんて不器用にも程がある。しかもこの口調に慣れ過ぎて癖の様に口を衝いて出てしまうせいか、自分でもコントロール出来ていないんだから不憫だ。階段を昇っていくカラ松の後姿はいつもと何ら変わりないようで、どこか寂しそうにも見えた。
殆ど物置と更衣室になってしまっているあたしの部屋に戻り、一番ラフなパーカー姿へと着替える。それから、ふと頭に浮かんだあるものを棚から探し出して、まだ部屋に居るであろうカラ松の元へ。あたし達兄弟は人一倍寂しがり屋で、だけど何でも一人で抱え込んじゃって、素直に気持ちを言葉に出来ない面倒な人間なのだ。みんな、よく似てる。
「カラ松、着替えた?」 「んっ、んん〜!?せめて返事をしてから入って来てくれないか?」 「兄弟だから良いじゃん。」 「いや、まぁ、そうなんだが……。」 「それより、これ。」 「ん?……ふっ、懐かしいな。」
【カラ松girls/No.0】名刺サイズの厚紙に書かれたその文字に、カラ松は目を細めて笑う。中学生くらいの頃にふざけ半分で作っていたものだけど、ナンバーゼロの特別感がとても嬉しくてずっと捨てられずにいたのだ。 あたし、これからも一生カラ松girlsだからね。そう言ったあたしに、カラ松はゴシゴシと袖で自分の顔を拭って、鼻声で「ありがとう」と。
(160807)
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