男は松、女は藤と言うけれど。 | ナノ




深夜。真っ暗な部屋の中、テレビだけが点いていて、その前に似たような顔が七つ並んで座っている。落ち着いて考えてみれば、とても異様で笑えてくる光景なのだが、今はそんなことを考える余裕など無かった。
ホラー映画を前に、おそ松、チョロ松、トド松、カラ松、あたし、一松、十四松の順で。一番怖がりの末弟トド松は、両サイドの二人の腕をがっちりホールドしているし、あたしも「見たい」とは言うけれどそれなりに恐怖心を持ち合わせているのでカラ松と一松をホールドしている。が、しかし、カラ松もビビり体質だから、逆サイドに一松。心許無いが、端っこに座るよりはマシだ。

「っていうかこれ見たいって言ったの誰?僕ほんとに嫌なんだけど……、」
「ごめん、あたしこの間ホラー見たいって言った……。」
「そんなに怖いんだったら見なくてもいいんだよ?トド松。」
「だっ、だって、一人で寝るの怖いし……、」
「トド松、そこで寝てれば。」
「う、うん。無理そうだったらそうする……。」

会話が落ち着いたところで、おそ松がディスクを再生させた。初っ端から仄暗い雰囲気の映像に、あたしよりもカラ松の方が力強くホールドしてくるし、一松も事あるごとにビクリと体を震わせている。心許無いとは言ったが、周りがビビっていると恐怖心が和らぐという、よくあるソレに助けられているのも事実だ。
ふと、背中にぞくりと寒気が走った。ホラー映画を見ると、見ている内容云々よりも、見終わった後の方が恐怖を感じるから不思議だ。今はまだ見ている最中だが、決して怖いシーンではなかった。けれど映画の様に後ろに誰か立ってるんじゃないか、という気がしてしまう。

「じゅ、十四松、」
「なーに?」
「何か出てきたら助けてね。」
「あいあい!」
「ちょっ、松姫(まつき)!?何かってなに!?」
「いや、ふと思っただけ。っていうかトド松鼻声だね。」
「トド松の涙か鼻水か何かで僕の袖濡れてるんだけど。」
「ご、ごめん、チョロ松兄さん……、」

瞬間、バンッと画面上に大きく映し出された幽霊の映像に、一部は驚きで、一部は恐怖で、みんなが「ひっ」と息を呑んだ。あたしの左腕と繋がっている次男坊は、気付けばカタカタと震えている。……うん、兄弟のこんなにも残念な部分が見えると恐怖も覚めるな。
それから暫く震えていたカラ松も、ストーリーが進んで話が解決していくにつれ、次第に落ち着いていって。見終えてしまえばスッキリする話だったと、ほんの少し明るくなってきた居間で各々が感想を口にしたところで、隣の一松がゴロンと畳に寝そべった。

「面倒だから今日はここで寝る。」
「じゃああたしもここで寝る。」

じゃあ、俺も、僕も、と続き、結局居間で雑魚寝して。起きたのは次の日の昼より少し前だった。



(160807)





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