男は松、女は藤と言うけれど。 | ナノ




松野家次男、松野カラ松はイタい。
決してそれが全てというわけではないのだが、イタさによってその他全ての良い所が払拭されてしまうくらいにはイタいのだ。二人で話す時はそんなにイタい発言をしないが、兄弟や他者と話している時はどうだろう。「イッタイよね〜」とトド松が口癖のように零してしまうのも頷ける。今日も今日とて「カラ松girlsを探しに行ってくる」とか何とか言って出掛けてしまったが、それがつまり何をしに行っているのかなんて誰も知らない。
いや、知らないはずだったのだ。今朝の段階では、確かにあたしも知らなかったのだから。けれどカラ松を見つけてしまった今、あぁ探すってそういう事ね、なんて暢気にしてはいられない気持ちになってしまった。

「……カラ松、」
「うおっ!?松姫(まつき)……!?」
「あ、えっと……邪魔しちゃった?」
「い、いや、大丈夫だ。松姫(まつき)は仕事の帰りか?」
「うん。そしたらカラ松見つけたから、その。」

カッコいい言い方してたけど、カラ松girlsを探すってつまりナンパ待ちってことだよね。なんて言えない!言えるわけない!
あたし達兄弟は決してブサイクではない(と信じてる)が、断じて美男美女に分類される人間ではないのだ。だからこそ言えないのだけれど、心の中に住む正直者のあたしがぽつりと零す。ナンパされるわけないよね、と。勿論言えるわけなどない。

「そうか、俺も丁度帰るところだったんだ。一緒に帰ろう。」
「え、あ、うん。」
「あっ、用事があるとか一緒に帰りたくないとかだったら言ってくれ!俺は別に構わないから、」
「ふはっ、あはは、」
「何かおかしいことを言ったか……?」
「ううん、何でもないの。一緒に帰ろう。」

きっとあたしが声を掛けなければ、まだまだ帰る気などなかっただろうに。いつでもあたしの気持ちを一番に尊重してくれるところ、小さい頃から何一つ変わってない。一緒に帰りたくないだなんて一度も思ったことないのに、そんな考えを零してしまったのはその優しすぎる性格のせいだろうか。
そっと手を差し出せば、カラ松は嬉しそうに頬を赤くして柔らかく笑った。

「手繋ぐなんて久しぶりだな。何かあったのか?」
「カラ松が、危なっかしいから、かな。」
「……訳が分からないのだが。」
「良いの良いの。」

あたしが紡いだ長男からの受け売りの台詞に、カラ松は首を傾げるが、気にしない。おそ松がそうした様に、あたしもカラ松が自分で答えを出すのを待とうじゃないか。



(160807)





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