男は松、女は藤と言うけれど。 | ナノ




十四松兄さんは、兄弟の中で一番行動が読めない。頭が良いのか悪いのかも誰もわからないし、普段もどこで誰と何をしているのか一番わからないのも十四松兄さんだ。だから多分、今日も僕が見られなかった瞬間に不可解な行動をとったに違いない。

もうそろそろ着くころだと思って、すっかり寝てしまっていたおそ松兄さんを起こし、松姫(まつき)も寝ているが一応声を掛ける。それからいつもの場所に車を停めて、僕が松姫(まつき)を背負って車から降りた。あとはいつも通り家に入ろうとすれば、余程心配だったのだろう、十四松兄さんが玄関に立ってたってわけ。僕達からすれば、お出迎えをしてくれる優しい十四松兄さんなのだが、チョロ松兄さんとカラ松兄さんの表情を言葉で表すとすれば、まさに鳩が豆鉄砲を食ったよう、なのだ。
兎に角。「瞬間移動……!?」という兄さん達の呟きを無視して、腕を伸ばしてきた十四松兄さんに松姫(まつき)を託し、僕達も部屋着に着替えて買って来た物などを片付けてから二階へ向かった。

「松姫(まつき)、どう?」
「あぁ、今さっき測ったら37.5だった。」
「熱が下がったとしても明日は絶対安静にさせないとね。」
「おそ松でもこんなに疲れてるんだ、松姫(まつき)が発熱するのも無理はない。」

襖を開ければ、既に布団に潜りこんでいる松姫(まつき)とおそ松兄さんを囲うように、他のメンバーが座っていて。いつもより少しだけ声を潜めて様子を尋ねた僕に、同じようにいつもより幾分か小さくした声で言葉が返ってきた。普段はイタい台詞を交えて回りくどい物言いをするカラ松兄さんも、流石にこういう場面だからかイタさは感じられない。誰も口には出さないが、松姫(まつき)だけでなく、おそ松兄さんのことも心配しているのだろう。いつも「構え」だの「寂しい」だのうるさい長男が、こんなにもあからさまに疲れるなんて。
「バスに乗れなかったことと関係あるのかなー?」ふと、十四松兄さんがそんなことを呟いた。

「え?」
「だって、バスに乗れなかったから迎えに行ったんでしょー?でも帰りのバスに乗れるようにって朝早くに家出てたの見たよ、僕!」
「確かにね。おそ松兄さんは置いといて、松姫(まつき)はそういう所しっかりしてる方なのに。」
「っていうか、今日のおつかいって誰の所だったの?知らないの僕だけ?」
「俺も知らないが。」
「僕も知らないー!」

兄弟は口々にそう言うが、僕も一松兄さんも、迎えに行くことになって初めて行き先を知ったのだ。と言っても、住所を聞いても誰の所かなんてさっぱりわからなかったし、迎えに行った時も特に見覚えのあるような感じはしなかった。まぁ答えがわからないにしろ、少しでもヒントになればと思って、迎えに行くときに聞いた地名を口に出してみる。勿論、地名だけでわかるなんて思ってもいなかったから期待もしていなかったのだけれど。
「あー……」そう声を漏らしたチョロ松兄さんは、カラ松兄さんと目を合わせて、ほんの少し困ったように笑った。



(160719)





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