男は松、女は藤と言うけれど。 | ナノ




トド松が述べた地名は確かに聞き覚えがあって。此方を見て困り顔をするチョロ松に、俺はちゃんとした笑顔を返せただろうか。
そもそも、普段からゴロゴロダラダラと気の置ける身内の中で自由に生活している俺達にとって、長時間も愛想を振り撒きながら只管話を聞くというのはある種で拷問に近い。しかもうちの長男長女ときたら、責任感なのか何なのかはわからないが、俺達兄弟のメンツを保つために異様に外面を良くしてしまう傾向がある。つまり、今日おそ松と松姫(まつき)が会っていたであろう、長話おばさん(命名、チョロ松)は2人には合わないタイプであり、出来れば合わせたくないとすら思っていた相手なのだが。
俺達の意図を話したところで、隣に座るチョロ松が深く息を吐いた。

「元々、僕達の評価なんてどこ行っても大して良くないんだから、メンツとか気にしなくていいのに。僕達のことなんか切り捨てて、父さんと母さんに迷惑かけない程度にそつなくこなしてくれよ、バカ兄さん。」

ベシッ。割と強めにチョロ松がおそ松の頭を叩くが、少し唸った程度で、起きるどころか動く気配すらない。少し不安になって額に触れてみるけれど、それは杞憂だったようで、特に熱さも感じられずに手を引っ込める。おそ松兄さんまで発熱、なんてことにならなくて良かった。と、同時に「とりあえず俺達も寝よう。」そう声を掛ければ、既に夢の世界に居るであろう一松と現実と夢の懸け橋を渡っている最中であろうトド松を十四松が手早く布団に寝かせてくれて。それからすぐに聞こえてきた十四松の寝息に、今日はなんだか疲れる日だったな、なんてことを思いながら、俺も目を閉じた。

次の日。目が覚めたばかりで何も考えられない頭でも、習慣づいてしまったその体はいつものように居間へと向かった。今日の朝ご飯担当はマミーだろうか、松姫(まつき)だろうか。あぁ、そういえばマミーは昨日の夜に町内会の清掃活動があるとか言ってて、けれど「僕が作るよ」なんてチョロ松が珍しいことを言っていたんだ。あれ、そもそも何故チョロ松が作ると言い出したんだったか。
階段を下りながらぼんやりとした頭で昨日のことをゆっくりと思い出していく。そうだ、松姫(まつき)とおそ松は大丈夫だろうか、と漸く昨日の出来事を思い出した頃には既に居間の前。一先ず襖を開け「おはようマイブラザー」と。

「チョロ松のバカ!」
「アホ!」
「クソニート!」
「クソ童貞!」
「クソダサい!」
「クソドルオタ!」

刹那、声を大きくして罵詈雑言を浴びせていた男女に、緑色の鉄槌が落とされた。状況は全く理解できないが、皆が元気ならそれでいい。



(161721)





 / top /