大きな栗の木の下で | ナノ


13.


「へぇ、そうじゃったんか。」

授業が終わると、昼休みに屋上で昼飯を食べながら、名無しさんは幸村との過去を話してくれた。気付けば幸村と一緒だったこと、毎日のように遊んでいたこと、幸村が引越し当日に会いに来なかったこと、他にも色々。本人の口から聞いたわけではないが、名無しさんが幸村を好きだったことはすぐに理解できた。
もしかしたら、好きだった、というのは語弊があるかもしれないが。

「何で引越し当日にそんなに会いたかったんじゃ。」
「……約束したから、」
「幸村くんにもわけがあったんじゃねぇの?」
「知らない。」
「そこまでこだわる理由があった、てことじゃろ。」
「…………。」

名無しさんからの返事はなく、何も言わずに俯くから、それ以上の詮索は無理に等しかった。丸井が珍しく食事の手を止めて、名無しさんの頭を優しく撫でる。俺から見れば、丸井の気持ちは見え見えで。随分と美味しいところばかり持って行かれている気もするけれど、そういえばソレは丸井の得意技だった。

「まぁ、大体わかったぜ。さんきゅーな。」
「うん、ごめんね。」
「何で謝るんだよぃ。」
「色々、」
「んじゃ、解決したら食べ物奢ってくれるってことで!」
「えっ」
「スイーツ食べ放題な!」
「えっ」

本気で困っている名無しさんが見えていないのか、それとも見て見ぬフリなのか。意気揚々とスイーツについて語りだした横で、名無しさんが肩を落とすのがわかった。
話を聞いただけでスイーツバイキングなんてぼったくりもいいところじゃが、こうなった丸井を止められるのは多分幸村くらいじゃろ。ご愁傷様としか言えないのう。
思わず喉で笑えば、それが聞こえていたらしい名無しさんは俺を冷ややかな目で見ていた。

「ところで、あれ以来幸村からのアプローチはあったんか?」
「い、いや、何もない。」

不意に、思いついたことを素直に口に出した。自分自身でも驚くくらい自然に頭に浮かんだその質問に、名無しさんは少し動揺して答える。確かに唐突過ぎて、動揺するのも仕方ないけれど。
そんな俺の急な質問に、何を思ったのか丸井は首を傾げた。「そういえばお前って元の家に戻ってきたんだよな。」と。転入して大分経つのに今更その話かと思うかもしれないけれど、よく考えれば、おかしい。

「そうだけど。」
「んじゃあ、幸村くんだって会おうと思えば会えるってこと?」
「そう、だと思う。」
「幸村にしては、意外っちゅーか。」
「だよな、もっと押せ押せな感じかと思ってたけど。」

丸井も俺と同じことを考えていたらしい。
幸村なら家に押しかけてでも名無しさんに会おうとするかと思ったけれど、そうではなかった。というよりも、名無しさんの「嫌い」という言葉に相当なダメージを食らったように思える。大切だからこそ慎重に事を運びたいのかもしれない。臆病な幸村っちゅーのも面白いもんじゃな。

幸村、大切なものから目を離しすぎじゃ。


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