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  06.抗争勃発


花巻と付き合いだして一週間。変わったことと言えば特別何もなく、強いて言うなら花巻の盛大な告白、つまり教室でキスをしたことにより廊下を歩けば冷やかされたりもするが、それも一週間経った今では収まりつつある。花巻の部活の都合で一緒に登下校することは叶わないし、昼食は今まで通り友達と教室で食べている。唯一彼とゆっくりできる時間は、ほんの僅かな食後のデザートタイムだけ。最初のうちは友達も気を使って「花巻と食べなよ!」なんて言ってくれていたけれど、正直に学校で一緒にいるのは恥ずかしいのだと打ち明ければ、笑いながら「心変わりしたら言ってね!」なんて承諾してくれた。
そう、つまりは恥ずかしいという気持ちが本音であり、全てである。

「あたしトイレ行ってくる。」
「オッケー、花巻来たら言っとくわ。」
「ありがと。」

まだ昼食を食べながら友達と談笑している花巻をちらりと見てからトイレへと立ち上がれば、あたしの友達は全てお見通しと言わんばかりに花巻への言伝を預かってくれた。自分事ながらも良い友達を持ったと思う。その上、今日もまた友達は駅前のシュークリームを買ってきてくれて、心なしかトイレまでの道のりもスキップ気味になる。早く教室に戻って花巻と半分こしよう、なんて幸せオーラ全開だ。

「あ、花巻。お待たせ。」
「おー、おかえり。」

トイレから帰ってきたあたしに、花巻はスマホから一瞬目を離してニコリと笑う。どうやらタイミングが悪かったらしい。ゲーム中の花巻は視線をスマホに戻してしまったけれど、それが終わればすぐにスマホを手から離して机の隅に置く。別にスマホくらい自由に弄れば良いのに、と付き合い出す前に言ったことがあるけれど、スマホ片手に話を聞くのはあまり好きじゃないのだとか。そういう些細な優しさも、あたしが彼に惹かれてしまった理由の一つなのかもしれない。
そんなことはさて置き。あたしは待ちに待ったシュークリームを食べるべく、机の上に置かれた紙袋に手を伸ばした。けれど。

「……あれ、何も入ってない。」
「…………、」
「花巻、何か知らない?」
「いや、その、」
「ね、ちゃんとこっち見て答えて。」

別に彼を疑うわけではないけれど、ソロソロと視線を右に左に泳がす彼を疑わずして、誰を疑うべきか。少し顔を逸らす花巻に、あたしは机の上に肘をついて少しだけ身を乗り出して。それからゆっくりと「こっち見て」と反復すれば、途端にガタガタと音を立てて椅子から降りた花巻はあたしの傍に来る、と同時に銅像にしてしまいたくなるほど綺麗な土下座をして見せた。ここまで来れば、何を聞かずとも答えは見えてくる。
口角だけを上げてニヒルな笑みを向けたあたしがどれほど怒っているかなんて、同じシュークリーム好きの花巻が一番よく分かっているだろう。

「食べちゃいました、ごめんなさい。」
「許す……とでも思った?」
「待って、その顔怖い、」
「今すぐ吐けよ!」
「ご、ごめんなさい!ガチな腹パンやめてください!」

渾身の一撃を繰り出したあたしと、腹部を抑えつつも土下座の体勢は崩さない花巻。壊れた機械のように「ごめんなさい」を繰り返す真摯さに免じて許そう、なんて優しさは、シュークリームが関与している時点で無いに等しいのだ。
許さない。


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