ぴーーーーーす | ナノ


  07.


教室で話していた通り、まずは部活仲間オススメの駅前にあるケーキ屋さんに向かって、これまたオススメと言われた新作シュークリームを二人で頬張る。ほっぺが落ちるほど美味しい、そう言っていた部活仲間を思い出して、確かにほっぺが落ちそうだと思った。零すことなく綺麗にペロリと食べてしまった名無しさんを見れば、彼女もそう思っているということは聞かなくてもわかる。それから、名無しさんが前々から好きだとはしゃいでいるイケメン俳優主演の映画を見て、いつかはこの人とも共演するのかな、なんて寂しくなりながらも少し誇らしく思ったり。ウインドウショッピングをして、ウェディングドレスに目を輝かせる名無しさんの未来図を想像したり。

「徹はこういう服が似合うと思う。」
「そう?じゃあ今度チャレンジしてみようかな。」
「じゃああたしこれ着るから、お揃いにしよ。」
「えっ、俺毎日着ちゃうよ!?」
「いや、同じ日に着ないと意味ないからね!?」

外に出てもやっぱり繰り出される意味のない会話に、お互いに笑い合う。デートらしいデートなんてよくわからないけれど、一緒にシュークリームを食べて、一緒に映画を見て、一緒に街をぶらつく。それだけのことがすごく楽しくて、結局、名無しさんが居ればどこだって楽しめるんだな、なんて。
どうやら、それは名無しさんも同じだったようだ。少し休憩しようと人の居ないような小さな公園のベンチに座って雑談をしていれば、笑い合って一息ついたところで、また口を開いた名無しさんは「あたし、徹が彼氏で良かった。」と。

「きっと徹となら、どこに行っても楽しい自信ある。」
「ふはっ、俺も。名無しさんと一緒ならどこでも楽しい。」
「あ、でも女の子が多い所は嫌かな。」
「……それは及川さんがイケメンってことでオッケー?」
「……オッケー。」

さっきはノーだったのに。やけに素直に頷いた名無しさんの顔を見れば、思った通り真っ赤にしているから可愛くて。抱きしめてしまったのは、まさに「思わず」だった。気が付いたら抱きしめていた、という方が適切かもしれない。「俺も、名無しさんが彼女で良かった。」ほんの少し力を込めて抱きしめれば、名無しさんがそっと俺の背中に腕を回したのがわかった。
大好きとか、愛してるとか、そんな言葉じゃ伝えられないほどに名無しさんが好きで、どうにかして伝わらないものかと精一杯の気持ちでキスをした。伝われ、伝われ、そう願いながらくっつけた唇を離して、名無しさんの顔を覗く。そうすれば、耳まで赤くなった彼女は顔を隠すように俺の胸に顔を埋めて「見ないで」と小さい声で一言。俺はなんて幸せなんだろう。


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