ぴーーーーーす | ナノ


  08.


幸せな1日を過ごした翌日のこと。
名無しさんは有名な子役だし、俺だって地元のバレー関係者にはそれなりに顔が知られている人間で。つまり、簡単に世間に知れ渡ってしまったのだ。新聞を見て「よくやったわね」なんて家族に大爆笑されたのはつい30分前のこと。とりあえず朝練に来たものの、情報の早い人が部内にも居たらしく、無断欠席とメッセージの未読無視でお怒りの岩泉副部長様に「お前だけ今日のメニュー3倍な。」と通告されてしまった。

「……まぁ、名無しさんとのことは良かったんじゃねーの。敵が増えるか減るかはお前次第だけどな。」
「岩ちゃん……!」
「あと、俺は名無しさんの味方はするけどお前の味方はしない。」
「えっ、ちょ、どういうこと!?」
「とりあえず昨日のことは土下座。」

結局、岩ちゃんも優しいのだ。朝練前に全員に土下座すれば、みんな何事もなかったかのように接してくれて。同じ学年のメンバーにはたくさんからかわれたけれど、それもみんなの気遣いだと思えば嬉しさが込み上げる。調子に乗って「これも及川さんがイケメンだからだよね!」なんて言えば、瞬時にボールが多方向から飛んできたけれど。
名無しさんちゃんはといえば、事務所やら仕事仲間に色々聞かれたらしいけれど、俺のことは既にみんなに話してくれていたらしく。興味本位での質問攻めにはあったが、仕事の面では何も問題ないらしかった。

「っていうか、俺のこと話してくれてたんだ?」
「う、うん。恋バナとか、結構聞かれるから、つい。」
「なんかそういうの、嬉しい。」
「嬉しい?」
「うん。だってみんなに話すくらいに好きってことでしょ?」

そう言えば、羞恥のあまり下を向いてしまう名無しさんだったけれど、それでも否定は出来ないようで素直にこくりと頷いた。そういう所も可愛い、なんてこれ以上口に出してしまったら、恥ずかしさで名無しさんが爆発しちゃうような気がするから言わないけれど。代わりに「ありがとう」と言えば、俺を見上げた名無しさんは嬉しそうに口角を上げた。
自分がこんなにも恵まれているなんて思ってもいなかったけれど、今回の一件でそれを実感できたような気がする。家族も友達も教師も、みんながこのみんなで良かった。
こんなにも幸せでこんなにも平和な世の中で、今日もまた二人で笑いあう。


(160229〜160321)


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