ぴーーーーーす | ナノ


  04.



青城バレー部として過ごして3年目でいつの間にか当たり前になってしまった部活仲間との昼休みも、名無しさんが居る日だけは必ず断って、名無しさんと一緒に過ごすようにしている。それは部活仲間も理解しているようで、いつもは昼飯行くぞと声を掛けてくれる岩ちゃんも名無しさんが居る時は顔を見せない。よく出来た仲間、だなんて上から目線かも知れないけれど、気を使ってくれている仲間達を有難く思っているのは事実だ。
教師たちは慣れたもので、終わりの号令をすると同時に授業終わりを知らせるチャイムが鳴った。そうすれば生徒はそれぞれ相手を見つけ、と言ってもすでに決まりきっているのだが、机をいくつかくっつけて昼食をとり始める。俺もその例外ではない。

「名無しさん、お昼だよ。」
「ん、もう……?」
「うん、起きて。」
「んん……、」

暖かい日差しの中、じっと黙って座っていれば、教師の言葉が子守歌に聴こえるなんてのはよくあることで。眠くなることで有名な社会の先生の子守歌、もとい、授業に負けてしまった名無しさんをゆさゆさと揺らしながら声を掛けた。彼女に関しては、殆どの授業を睡眠に費やしている気がしなくもないけれど、それはまぁ良いのだ。
夢の世界から現実世界へ戻ってきた名無しさんは誰かに言わされたかのように「おはよう」と自然に声を出して。それからややあって「おひるごはん、」と唱えた彼女は、漸く目が覚めたようで「お昼ご飯、食べよう。」と言葉らしい言葉を発した。

「あの社会の先生、好きだなぁ。」
「いつも寝てるのに?」
「あの声の心地良さと言ったら、もう。」
「確かに。そういう意味では俺も好きかも。」

学校に来る前に買ってきたコンビニの牛乳パンと、朝のうちに購買で買っておいた総菜パンと飲み物。名無しさんと意味のないような会話を交わしながらそれらを机の上に出して、どちらともなく「いただきます」と食べ始めた。俺の机上に並べられたいくつかの食べ物と比べれば、名無しさんの弁当は半分以下の量しかない。「それで足りるの?」と聞いたことがあったけれど、よく考えてみれば運動部の男子と帰宅部の女子を比べること自体がおかしかった。

「あれ、今日は徹ママのお弁当じゃないの?」
「うん、今日は寝坊しちゃったみたいで。」
「なんだ、連絡くれたら徹の分も作ってきたのに……。」

沢山作ってくれば良かった、なんて名無しさんは眉を下げるけれど、俺はその気持ちだけで十分嬉しい。そういう名無しさんの優しさが、俺は昔からずっと大好きだ。
あまりにもしょぼんとする名無しさんが可愛くて。だからほんの少し甘えてみようかな、そう思った俺は「じゃあ卵焼きちょうだい。」と美味しそうなソレを指さした。そうすれば眩しいくらいに笑みを浮かべた名無しさんは、箸で掴んだソレを俺の口元まで運ぶ。「あーん」その言葉とともに口を開けて素直に卵焼きを口に含んだは良いけれど、正直、恥ずかしくて味なんかあんまりよく分からなかった。


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