ぴーーーーーす | ナノ


  02.


高校に入って、名無しさんは今まで以上に忙しくなって、俺と岩ちゃんが教えられるように一緒の高校に入ったは良いけれど、居ない日の方が多かった。けれど、それでも同じ高校というだけで嬉しかったし、出来る限り一緒にいることが出来て、幸せとさえ思えていた。
それと同時に、もっともっと上を目指して名無しさんの自慢の彼氏になろうと、たくさんの時間をバレーに向けて。背中を押してくれる仲間もたくさん出来た。

「あ、あの、サインください!」
「いいよ。…………はい。」
「ありがとうございます!」

たまに名無しさんちゃんが学校に来ると、決まってそのクラスは混雑する。名無しさんちゃんの隣の席になろうもんなら、飢えた男共に何を言われるかわかったもんじゃない。そんな理由で、名無しさんちゃんの隣の席は必ず俺に回ってくるというミラクルも合わさって、お互いに忙しくなったけれどそれなりに充実した恋人関係を築けていた。

「名無しさんさん、及川さんと付き合ってるんだって。」
「あー、確かにお似合いかも。」
「幼馴染らしいよ。」
「いいなぁ、美男美女で幼馴染の恋人……」

廊下からそんな噂話が聞こえることも少なくなくて、口角が上がりそうになるのを堪えながら平然を装って歩くのに必死だった。「及川、また噂されてんじゃん」なんて仲間内に言われた時だけ素直に口角を上げてニヤニヤしては、キモイと岩ちゃんにボールをぶつけられることも日常茶飯事だ。

「っ、ふふふ、」
「どうした、及川。」
「ついに壊れたか。」
「いや、俺って恵まれてるなぁって思って。」
「一発とは言わない。五発くらい本気で殴らせてくれ。」
「一発もやだよ!?」

クラスの友達も、バレーの友達も、そして名無しさんも。このメンバーでこの環境で、俺は本当に幸せ者だ。



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