梟谷 | ナノ


▽ 完璧には程遠い


あたしの彼、木兎光太郎は、とても面倒な人間だと思う。元気が有り余っていていつもうるさいし、かと思えばちょっとしたことで落ち込んで「しょぼくれモード」と名付けられた静かな時間が始まったりもする。いつも周りを巻き込んでしまうそれはまさに台風の目の様で。正直言えば、出会ってすぐの頃はこの人と毎日一緒に過ごすなんて無理だと思っていたのだけれど、慣れは怖い。気が付いたら彼が居ないと寂しいと思ってしまうほど、彼に惚れてしまっている自分が居た。

「名無しさん!今日の弁当何!?」
「今日は鳥そぼろ丼風にしてみたんだけど、どう?」
「うっわ、美味そう!いただきます!」

部活の朝練で光太郎は朝早くに家を出なければならないという理由から、付き合いだしてからずっとお弁当はあたしが作ってくるようにしている。昼休みに入った瞬間にあたしの近くの席を陣取ってお弁当を覗き込む子どもの様なワクワク顔を見てしまったら、朝のお弁当作りにも気合が入る。もっとこの顔を見たい、もっと「美味しい」と言ってほしい、もっと彼が喜んでくれますように。
もぐもぐと夢中になって食べている光太郎を見つめていれば、ふと顔を上げた光太郎と目が合って。「え、顔になんかついてる!?」なんてほんのり頬を染めてオドオドする彼に愛しさが込み上げた。

「ううん、何もついてないよ。」
「そっか。あ、これすっげー美味い!」
「ほんと?じゃあ今度またこれ作ってくるね。」
「おう!」

ニカッ。効果音をつけるならこれが一番適切だろう。歯を見せて笑った光太郎は、またすぐに視線をお弁当箱に戻してガツガツと口一杯にご飯を頬張りだした。たったこれだけのことで、あたしの顔が熱くなっていることに、彼のことだから気付いていると思う。部活で主将という立場に就くだけあって、実は周りをよく見ているのだ。今も、そう。
ドキドキする心臓を落ちつけようと水筒に手を伸ばしたのは良いけれど、こういう時に限って蓋が固くて開けられなくて。ご飯を頬張る光太郎に目を向けながらも、お腹のあたりで必死に蓋を開けようとするあたしに、光太郎は少し拗ねたように「そういうの俺に言えよ!」と。

「ほら、開いたぞ!」
「ありがとう。」
「もー!俺、彼氏なんだからもっと頼れよ!」
「水筒ごときでも?」
「何でもいいから頼ってほしいの!」

ぷう、と頬を膨らませて「わかったの!?」と怒る姿はまるで子どもだけれど、言っていることはとてもカッコ良くて。わかった、と笑って見せれば「それでよし!」と満足そうに頷いた。

あたしの彼、木兎光太郎はとても面倒な人間だと思う。けれど、自慢の彼氏だ。


(160512)


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