青葉城西 | ナノ


▽ 怪獣と住んでる


 おかしい。
 どう見てもおかしい。
 体を起こしてみて確認したけれど、うん、おかしい。

「んん?」
 あたしが寝ぼけているのだろうか。それともこれはまだ夢の中か。
 昨日の夜は、いつも通り彼の腕に収まって、まるで抱き枕の様にされながら一緒に並んで寝たはずだ。だから、当たり前のように、朝起きたら隣には彼が寝ていると思ったのに。
 最初は、先に起きていると思ったのだけれど、先に起きた方がカーテンを開けるという我が家のルール上、閉じたカーテンを見れば彼が起きていないことはすぐに分かった。―――いや、彼が起きているかどうかなんて部屋を見回した時点で気付いている。ただ、それを理解するのに時間がかかるというか、理解できないというか。

 まず、あたしが目を覚ましたのは布団の中だった。大事なことは、あたしの体勢ではなく、その布団の状況である。目が覚めた時点で少しだけ息苦しく、何故か薄暗い。ビックリして出口を探してもなかなか見つからず、漸く顔を出した所で理解したのは、あたしが布団に埋められていたということくらいだ。
 次に、彼のものと思われる寝息の発信源が、足元から聞こえてくることに疑問を抱く。あたしの彼は足から息を吸い、足から息を吐く生物だっただろうか。そんな地球外生命体と付き合った覚えはない。じゃあ寝ている間に何かしらの事件があって、鼻と口だけ足元に行ってしまったのか。んん、それだと、どちらにせよ地球外生命体である。そもそも、彼の存在自体が見当たらない。
「はじめ?」
 あたしの知らぬ間にぐちゃぐちゃになった布団やシーツを引き剥がし、その存在を探し出す。声を掛けても起きないであろうことは初めからわかっていたけれど、一応。わかってはいたけれど、勿論、彼から返事が返ってくることは無く。寝息を頼りにしてベッドの上の布団をまさぐれば、少しして漸く見えた肌色。が、しかし、布団を引き剥がして現れたのは彼の片足のみ。
「ぎゃっ、」
 ホラーのような状況に、思わず女子らしくもない声が漏れた。これでも彼が起きることは無いのだから、随分と図太い神経をしている。
 その足を辿るようにゆっくりと布団を避けていき、彼の姿を確認し、そこであたしは再び首を傾げた。ベッドの足元の方に片足を乗せ、布団に埋もれながら床で爆睡する彼。そしてその手には、彼の古いジャージのズボンが。
「んん?」
 そのズボンは、確かに彼のものだけれど、最近ではあたしがパジャマにしているものだ。しかも、昨日の夜はそれを履いて寝たような。
 と、そこで初めて自分がパンイチだと気付いて、慌てて彼からジャージを取り上げた。昨日はそういう行為をして寝たわけじゃない。ということは、あたしが寝ている間に脱いだのか。いやいや、そんな馬鹿なことするわけない。じゃあ彼が脱がせたのか。
「……有り得る」
 急いでジャージを履いたあたしは、彼が全く起きないのを良いことに「ばか!」と一発殴り、先程引き剥がした布団やシーツを彼に被せた。それでも全く起きる気配のない怪獣ハジメに、カーテンを開けたあたしはもう一度「ばか!」と投げつけてから、部屋を出る。

 数十分後。やっと起きてきた彼に文句を垂れれば、真っ赤な顔をして「すまん」と一言返ってきた。



しさちゃんより(171224)

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