青葉城西 | ナノ


▽ 協力してください


※及川談



「頼むから協力して!」

ある日の放課後のことだった。部室に入って来るなり、一目散に俺の元に駆け寄った彼、マッキーこと花巻貴大は、そう言って俺に頭を下げた。理由どころか、何に協力すれば良いのかすら理解できず、とりあえず「一旦落ち着こう?」と返す俺に、マッキーはこくりと頷いて深呼吸を一つ。それからロッカーに鞄を押し込み、もう一度俺の方へと向き直った。俺の言う通りに少し落ち着くことが出来たらしく、けれど焦った表情は変わらずに、今度は「及川に頼みたいことがある」と。本気で焦っているという事だけは伝わった。

「何の協力?」
「……に、……く、……、」
「ごめん、もう一回言って」

俺の耳が悪いというわけじゃないはず。俯いてぼそぼそと話すその言葉を拾えっていう方が難しい話だ。部活の時のような元気ハツラツな大きい声はどこへ消えてしまったのやら。頼むとすぐにもう一度、今度は先程より少しだけ大きな声で話し始めたマッキーに、俺も聞き逃すまいと耳を傾けた。そうすれば「名無しさんに、告白、したくて」なんて。初めて見たと言っても良い程真っ赤な顔でそう言われてしまうと、友達として断ることも出来ず。「わかった」と頷く俺に、マッキーは子犬のような表情で「ありがとう」と何度もお礼を繰り返した。

話を聞くと、どうやら明日は彼女の誕生日らしく、プレゼントを渡すと同時に告白したいのだとか。緊張してあまり話しかけられないマッキーにとって、誕生日というイベントは話しかけるチャンス。しかも「プレゼント待ってるね」なんて名無しさんちゃんの方から言ってくれたらしく、冗談半分だとしてもプレゼントだって渡しやすいはず。逆に今回を逃したら、クリスマスまで待つか、自分からきっかけを作って告白するしかないのだから、マッキーには是非ともこのチャンスを生かしてほしい。

次の日。昨日の夜にみっちりと特訓したマッキーの背中をばしりと叩いて、笑顔で「頑張って来て」と送り出す。マッキーはといえば、今にも泣きそうな表情で「うん、」とだけ答え、のそのそと名無しさんちゃんがいるであろう教室に向かって行った。俺から言わせてみれば、名無しさんちゃんはどう見てもマッキーのことが好きなんだから、もっと自信を持てばいいのに。それに気付けなくてもやもやするのが片想いの醍醐味でもあるんだけど。

「名無しさん、おはよう」
「あ、おはよう」
「あの、誕生日、おめでとう」
「ありがとう」
「それでその、プレゼント」

はい、と手渡すマッキーは、覗き見をしている俺の距離からでも手が震えていて。「それと、もう一つ、言いたいことがあって」と付け足した言葉は、緊張のあまり上擦っているように思う。それでも一生懸命に言葉を紡ごうと、あー、とか、うー、とか唸るマッキーを見ながら、思わず俺の手に力が入った。頑張れ、頑張れ、と心の中でマッキーに念を送る。頑張れ、大丈夫、お前なら出来るよ、信じてるから。そう何度も。

「あたし、花巻くんが好きです」


ぽかんと口を開けたのは、マッキーだけじゃない。確かに頑張って告白するように念じたけれど、まさか名無しさんちゃんが告白してくるなんて思いもしなかったのだ。勿論、それはマッキーも同じなようで「……え?」となんとも間抜けな声が口から零れた。

「あ、ご、ごめん。なんか、今言わなきゃって気がして、」
「う、ううん!俺も名無しさんが好き、だから、その、付き合ってください!」
「……っ!よろしくお願いします!」

2人して顔を真っ赤にさせて嬉しそうに笑い合う。俺の念が名無しさんちゃんに向かってしまったらしいけれど、結果オーライだからそこは大目に見てほしい。というか、念が届いたことに感謝してほしいくらいだ。まぁ、今回は友情出演ってことで。
そこからはマッキーに任せて、俺はそっとその場を後にした。後でいい報告を聞いて一緒に喜ぶまでが友達の仕事でしょ?



(170618)企画「#藍集め」…つきちゃん(Twitterより)/4、友情


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