青葉城西 | ナノ


▽ 乙女の愛


※年齢操作・娘捏造




人はみな恋をして、愛を知ることで成長していく。
先祖の人たちがそうやってきたように、あたし達も恋をして愛を学んできた。そこに多少の趣味、思考の違いはあるけれど、多分、これが人間としての一般道である。そうしてあたし達が愛を育んだことにより生まれてきた愛の結晶が「あしたからきりんぐみさん!」と年中クラスへの進級を喜んでいたのはつい先月。気付けば新しいクラスにも慣れ始めていたある日のことだった。

「まま!あとでおりがみちょーだい!」
「折り紙?何するの?」
「たーちゃんにあげる!」

休日で仕事が休みである旦那の貴大も一緒に、三人で仲良く朝食を食べていれば、唐突に娘がそう言ったのだ。たーちゃん、というのは今年初めて同じクラスになった男の子。最近、よく名前が挙がるのもたーちゃんだし、お迎えの時にもよく一緒に遊んでいるのを見る。たーちゃんママに話を聞いてみても、どうやら仲良くしてくれているらしい。そのたーちゃんに折り紙をプレゼントするとなれば、いよいよ娘の想いも本格的なものになってきたようだ。
そんな娘を見て、貴大は「たーちゃん?」と、こくりと首を傾げた。仕事のせいで娘との時間が少ない貴大は「貴大のたーちゃん?」なんて適当な解釈を口にするが、的外れもいい所である。ちがう、と娘に冷たくあしらわれた貴大に、たーちゃんのことを一通り説明すれば、それに付け足すように「すきなの」と娘。

「えっ、マジで?」
「まじってなに?」
「本当に、ってこと」
「ほんとにたーちゃんすき!」

自分で聞き返したくせに「マジか」と小さく呟いて項垂れる貴大に、あたしはくすくすと笑いを零す。小さいうちの恋心なんて大人になってしまえば忘れてしまうのだから、そんなに気にすることもないだろうに。娘大好き、親バカ全開の貴大にとっては、娘の恋愛事情はFBIの極秘任務並みに重要案件らしい。たーちゃんってどんな子なの、どこが好きなの、何して遊ぶの、と質問攻めにする貴大に、娘は少し困った顔をして。

「ぱぱ、うるさい」
「え……、」

娘の一撃はどんな刃物よりも深く貴大を突き刺し、傷口を抉った上に塩を振りかける程の攻撃力を持ち合わせている。瀕死状態まで追いやられて固まる貴大と、それを無視して「たーちゃんがね、」とあたしに話を続ける娘。けれど、今にも泣き出しそうな貴大を横目に娘の話に耳を傾けていれば、不意に「でもね、」と娘は声を小さくして「ほんとうはね、たーちゃん、さんばんなの」と。唐突な「サンバン」を理解できずに聞き返せば、うん、と娘は世界一の笑顔で。

「だって、いちばんがままで、にばんがぱぱだもん」

瞬間、先程まで鬱まっしぐらな表情をしていた貴大はどこへやら。瀕死どころか一発K.Oされた貴大は、緩み切った表情で娘を抱きしめた。「ままの次なら2番でいい!ありがとう!最高!大好き!幸せ!」なんてありとあらゆる幸せの表現を用いた貴大は、多分、まだまだ親バカを抜け出せそうにない。



(170613)企画「#藍集め」…つきちゃん(Twitterより)/1、乙女の愛


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