たがため | ナノ


  4.


別れた日から2週間。
今まで通り岩ちゃんとは仲良くやってるし、徹も前ほどではないけど元気にやってるって岩ちゃんが言ってた。正直、今は徹とのことをわかってくれている岩ちゃんと居るのが一番楽。たまに、仲の良い友達に「及川くんと何かあった?」なんて聞かれるけど、特に何もないということで通している。いずれバレることかもしれないけれど、徹もわざわざ話したりはしないと思って何も言わないでいる。

「部員達はもう気付き始めてるみてぇだけどな。別に及川も何も言わねぇし。」
「そっか。」
「っつーか、聞ける感じじゃねぇ。ってのはお前もわかってるだろうし。」
「……部活の方、何も問題ない?」
「あー……」

少し考えてから「まぁ、」なんて、岩ちゃんらしくもなく言葉を濁されたらあたしだって察しはつく。というか、部長でありムードメーカーである徹に元気がなかったら、部活自体もハリがなくなることは想像できていた。あたしがしたことは正しかったのか、そう最近になって思うけれど、今更取り返しのつかないことをしてしまったことに変わりはない。

「今度見に来いよ。」
「でも、」
「あれだけ人いればわかんないだろ。」
「……わかった。」

あたしが変えてしまったバレー部の現状を見たところで、何の罪滅ぼしにもならないとはわかっているけれど。少し、気になってしまうのも本音。
何気なく廊下を歩く生徒に目を向ければ、楽しそうに笑いあうカップルが目に映って視線を逸らす。今見てしまったら、思い出して泣いてしまうような気がしたから。それなのに。
逸らした先には、徹。

「お前が気付いてるかは知らねぇけど、そんなに目で追うくらいならもっと素直になれよ。」
「え……、」
「話せば徹、徹ってうるせぇくらいに、及川が大好きなんだろーが。」

真剣に怒る岩ちゃんに、あたしは何も言い返せなかった。図星だったことが、何故かとっても嬉しかったから。
ありがとう。理由はよくわからないけれど、そんな言葉を口にしようとした瞬間。あたしの言葉を遮るように、岩ちゃんは「あ、やべ。」と。どういうことかわからず聞き返そうとするも、そんな暇は与えられなかった。


そこに現れた徹はどう見ても空元気だし、少し痩せたようにも思う。あたしのせい。そんな言葉が頭を過る。一刻も早くこの場から立ち去りたい気持ちで居れば、都合よく予鈴が鳴って。
「じゃあ、あたし教室戻るね。」そう言って背を向ければ、不意に腕を掴まれて少しよろめく。

「名無しさん、」
「なに?」
「あ、えっと、あー……またね。」
「……うん、またね。」

またね、ってそんなに寂しそうに言う言葉だったっけ。

(20150831)


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