たがため | ナノ


  3.


無断遅刻はするけど、無断欠席はしない。そんな及川が部活を無断欠席した上に、連絡はつかないし、次の日は一度も学校で見なかった。
そんなことがあってから3日。ずっと目は真っ赤だし、今までの笑顔はどこかに忘れてきたかのように話しかけるなオーラ全開で。本当は何があったか問い詰めるつもりだったのに、今の及川相手にそんな無下なことは出来なかった。

「及川、今日の部活休め。」
「え、何で?」
「何でも良いから休め。」
「岩ちゃんがそんなこと言うの珍しいね。けど俺、部活出るよ。」
「はぁ?そんな様子で部活出ても、」
「うるさい。」

俺の言葉を遮るように放たれた一言は聞いたことのないような低い声で、どす黒くて、鉛のように重たかった。それ以上俺に止めることは出来なくて、立ち去る及川の背中をただただ見つめる。それから、迷わず彼女、名無しさんの元に向かった。
及川が溺愛している名無しさんは校内でも有名で。クラスには居なかったもののすぐに捕まえることが出来た俺は、早速と言わんばかりに彼女に問い詰める。

「名無しさん、及川の様子が変なんだが、何か知らないか!」

言えば、彼女が「ひっ、」と小さく声を漏らした。そりゃあ、急に大声で問い詰められたらビックリもするか。なんて、頭の片隅に居る冷静な俺が呟く。それから軽く深呼吸をして、名無しさんをしっかりと視界に捉えた。

「……名無しさんなら知ってるだろうと思ってな。」
「…………、」
「教えてくれ。何があった?」
「……あのね、あたし、徹と別れたんだ。」
「…………は?」

思わず出てしまった一言はあまりにも不躾だったように思えて「あ、わり。」と軽く詫びれば、名無しさんは「いいの。」と横に首を振った。

「そう言われるのも覚悟してたの。あんなにカッコ良くて、何でも出来て、あたしを愛してくれる人、きっと後にも先にも徹だけだと思う。」
「じゃあ何で、」
「何でもかんでも一生懸命な徹を見てたら、この人の負担にはなりたくないなって思ったの。徹には絶対に幸せになってほしいから、あたしの為に休日潰してまで頑張ってほしくない。あたしの勝手なエゴでしかないんだけどね。とにかく、徹とはこれでもうお終いにしたの。」

目の前の名無しさんは笑っている。けれど、俺には泣いているようにしか見えなくて。いたたまれなくなった俺は「何かあったら話聞くからな。」なんて名無しさんの頭を撫で、その場から立ち去った。いや、正確に言えば逃げた、だな。
好きだから幸せになってほしい。あいつらはきっとそういう思いが強すぎる。もっと素直に自分の欲を満たせば、きっともっと幸せになれるだろうに。

(20150831)


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