Hot summer !!! | ナノ


  03.心の底から


「なぁ、他校ってマネージャー居るんかな。」

集合予定時間のお昼に向けて、コートの整備、ボールの数合わせなど諸々の準備を進める中、ふと名無しさんは誰に向けるでもなくそう言った。
そう言えば、そんなことは全く気にしていなかった。あくまでも自分達のメンバーの一員として名無しさんに参加を促したわけだけど、他校はマネージャーを連れてくるのだろうか。そもそも、マネージャーがいるのかどうかもわからない。今日来る学校で唯一わかっている氷帝には、樺地くんというオールラウンドな存在が。

「どうやろな。」
「そもそも、どこの学校が来るかもわからへん。」
「あぁ、せやった。」

謙也と財前が名無しさんの呟きに返事をするけれど、答えにならないような返答で。名無しさんが少しばかり寂しそうに見えたんは、気のせいじゃないと思う。マネージャー仲間が居ないどころか、女の子が一人だったら。
名無しさんが無事に合宿を終えられるように、俺がしっかり守ったらなあかんな。

悲劇が起こったのはそれから数分後のこと。
新幹線で最寄りの駅に着いた、という跡部くんからの連絡と同時に記載されていたソレが事の発端やった。

「あ、」
「どないしたん、白石。」
「あー、いや、その、」
「はっきりせぇへんなん部長らしくないっすわ。」
「ほな言うけど、合宿でマネージャーも女の子も名無しさん一人やから。」
「え、」

瞬間、その場にいた数人が手を止めて俺を見る。若干一名、見ると言うよりは睨む、やけど。
ゆらり、と立ち上がった彼女は、表情が見えない程度に軽く俯いて歩み寄って。パッと視線を合わせたかと思えば、にこやかに笑った。「歯、食い縛って。」と。
白石蔵ノ介終了のお知らせ。

「みんな、準備再開しよか!」
「ちょ、名無しさん……弁解の余地を……!」

パンパンと手を叩いて声を掛ける名無しさんの横で、俺は痛みに悶えながら名無しさんに訴えた。
歯を食い縛れ、なんて言われたら、顔面に来ると思うのが普通や。せやけど名無しさんは一発では気が済まなかったらしい。首がもげるほど痛い平手打ちに加えて、飛び蹴りで肩パンならぬ肩キック。更に骨折するんちゃうかって程に威力のある弁慶キック。
コンボ攻撃なんて聞いてへんで。

「ほな聞くだけ。」
「この件に関しては、今更情報を送った跡部くんに原因が、」
「ほなあたしを合宿メンバーに入れたんは誰?」
「俺です。」
「話すことはもうありません。」

それから他校が来るまで誠心誠意土下座をしたことが、暫くネタにされる覚悟は出来とる。



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