Hot summer !!! | ナノ


  02.確かにイケメン


来たくはなかったけれど、来ないわけにも行かなかった。前日に伝える蔵には腹が立ったけれど、それはもう済んだ話だし、あたしも嫌味を言いすぎたと思う。蔵が本気で落ち込んだことも、気付かないふりをしたけれどわかってたから。

「蔵、おはよう。」
「名無しさん、おはようさん。ちゃんと来たんやな。」
「おん。あたし昨日言い過ぎたん、謝らなあかんし。」
「言い過ぎた?」
「蔵、落ち込んどったから、ごめんな。」

言えば、蔵は「ふは、」と笑みをこぼし、それからあたしの頭をポンポンと優しく触る。「そんなん気にしてへんで。」なんて、やっぱり蔵は優しい。あたしがどんなに酷いことを言っても、酷い行いをしても、蔵はいつも優しくしてくれる。
たまに説教するあたり、オカンみたいなやっちゃな。

「ん、どないしたん?」
「え、あ、いや。何もない。」
「そか。」

色々と考えを巡らせながら蔵をじっと見ていれば、あたしの視線に気付いた蔵はあたしに笑顔を向けた。それにボケもしないで普通に答えてしまったあたしに、蔵はまた無駄なイケメンスマイル。見慣れてしまったせいか、ファンの女の子達みたいに「きゃああああ」とかいう黄色い声は出ないけれど、カッコいいことは否定できない。
っちゅーか、ほんまにイケメンやな。

「蔵ってイケメンやな。」
「ぶっ!な、何や、急に。」
「いや、急に思ってん。」
「急にも程があるやろ。」
「いや、あたしの中では過程あったし。」
「いやいやわからへんし。」

思わず、といっても過言ではないくらいにすんなりと出てしまったその言葉に、蔵は赤面する。それでもイケメンなことには変わりないけれど。
不意に遠くの方から「おはようさん」と声が聞こえたかと思えば、謙也が走ってくるのが見えて、あたしは手を振って「おはよう」と。あたし達の会話を知らずに無邪気に走ってくる謙也が、蔵の顔を見て首を傾げるまであと少し。


その頃。

「やっぱり遠いね、大阪は。」
「疲れたっす。」
「ここからまた少し歩くんだろぃ?」
「あぁ、そうだよ。」
「やってらんねーな、やってらんねーよ!」
「このくらい何てことないだろう。」
「クソクソ!何で俺達まで歩きなんだよ!」
「確かに、俺たちは車移動で良かったんちゃう?」
「くそ暑ぃー!」
「普通の言葉を喋らんか!」
「とりあえずお前は黙ろうか。」


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