Hot summer !!! | ナノ


  15.疑問符


「昼、一緒に食べんか。」
「へ?」

素っ頓狂。それが今の名無しさんにぴったりじゃった。そんな声も出せるんかっちゅーくらい不思議な音は、疑問符で溢れた名無しさんの脳内を見事に言葉に表せていたと思う。そんな名無しさんに対して「もっと方言聞きたいんじゃろ?」と取り繕えば、ハッとして「あ!おおきに!」と笑った。
ついでに、と隣に座る財前にも目を向ければ、いつも通りの形相で。

「財前も座りんしゃい。一緒に食うじゃろ。」
「おおきにっすわ。」

言えば、わかるかわからんかくらいの些細な変化じゃったが、ほんの少しだけ表情が柔らくなるんがわかった。それをもっと表に出せば、名無しさんも気付いてくれるじゃろうに。きっとそれが出来んから、財前はひたすら周りを散らして敵を増やすんじゃ。

「あ!俺らも一緒にえぇか!」
「蔵、謙也!えぇよね?」
「好きにしんしゃい。」

考え事をしとった俺の視界に、不意に名無しさんが入り込んで。驚いたのがばれんように冷静な自分を演じることに精一杯。いつも通り涼しい顔して答えたはいいが、よくよく周りを見れば四天宝寺の中に立海の俺が紛れこんどる状態で、アウェー感が尋常じゃない。まぁ、それが気にならないのが四天宝寺のえぇとこじゃな。
四天宝寺、というよりコイツのせいかもしれんが。そう思って見とったら、昨日の夕食の時と同じように目が合って、名無しさんは嬉しそうに微笑む。

「あ!今は完全に目が合ったよな!」
「ん、変な奴じゃなぁって考えとった所ぜよ。」
「何でやねん!変ちゃうわ!」

わざとらしくむすっと頬を膨らます名無しさんの横で、財前がどんな顔をしちょるかなんて見なくてもわかった。それから「突然タメ口で話す時点で普通ちゃうわ。」と財前の一言。確かに、初めから名無しさんは誰に対してもフレンドリーで、まるで昔から知っちょった仲のようじゃ。厳しい立海からしてみれば、それも四天宝寺の、こいつらの良ぇところじゃと思うが。

「えぇー、仲良しの証拠やん!なぁ謙也!」
「俺等は親戚やからえぇけど。」
「とにかく、礼儀に厳しそうな先輩には気を付けるんやで。」
「ほいほい、蔵ノ介先輩は口煩くて敵いませんね、ほんまに。」
「説教するで。」
「すんませんでした。」

まるで四天宝寺劇場じゃ。ぽんぽんと弾むように進んでいく会話は、練習したんじゃないかと思えるほど。やっぱり面白いやっちゃな、なんて会話に耳を傾けていれば、ふと過ぎった疑問に俺は首を傾げた。
ちょっと待て、この会話、どういうことじゃ。何が冗談で何が本当かわからん。
首を傾げる俺に、名無しさんが首を傾げ、同じように白石も首を傾げて見せる。

「どないしたん、仁王くん。」
「一つ、聞きたいんじゃが、」
「おん、えぇで。」
「……コイツ、何年じゃ。」

名無しさんを指さしてそう問えば、ほんの一瞬、全員の動きが止まった。「え?あ、あれ?言うてへんかったっけ?」と名無しさんの少し焦ったような声が、やけに鮮明に聞こえたのはきっとそのせいじゃろう。そして誰かがぽつりと零す。

「二年やで、こいつ。」


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