Hot summer !!! | ナノ


  16.惚れたら負け


惚れたら負け。そんな言葉が昔からあったように、好きな女には逆らえへんのが男の性っちゅーもんや。それは俺自身が一番よくわかっとることやった。いくら名無しさんが年下やとしても、逆らえへん理由がそこにある。
今更ながら名無しさんが二年生やと知ったらしい仁王くんやったけど、特に反応なく。

「ほう、そうなんか。」
「言い忘れとった。ごめんな?」
「年齢は特に気にせん、赤也もそんな感じじゃき。」

名無しさんの軽い詫びにも笑って答えてくれとるあたり、仁王くんは思っとる以上に心が広い人なんやともう。本より、あのごった煮の部屋でも我慢してくれとる彼が、心の狭い人間やなんて思っとらんけど。
問題は、仁王くんが許してくれるとかそういうことやない。先輩として、そして部長として、俺は全く反省の色を見せへん名無しさんを注意するべきやろうか。

「あー、赤也くんな!今度話してみたいと思っとったん!」
「お前は切原と絡んだらあかんで。」
「何でやねん、光のケチ!」
「アホ2人集まったらロクなことにならんやろ、どうせ。」
「それは言えとるぜよ。」

頭の中で切原くんと名無しさんを想像しとるであろう財前と仁王くんは苦笑いし、それを聞いとった周りが笑い声を零す。それに対して頬を膨らます名無しさんでさえも可愛く見えてしまう俺は、誰よりもアホなのかもしれん。

「なぁ蔵、みんなが酷い!」
「俺も否定は出来ひん。」
「蔵までそんなこと言うんか!」
「でも、」

「まぁ、しっかりした誰かが一緒に行けばえぇで。」なんて、名無しさんに甘すぎる自分に、自分でも呆れた。長所も短所も全部ひっくるめて、それが名無しさんなんや。そう自分に言い聞かせることで、自分自身に言い訳しとることは分かっとる。
惚れたもんの弱み、やな。全部好きやから、全部許してしまうなんて。こんなん、部長失格や。

「おおきに!蔵大好き!」歓喜する名無しさんに、俺も笑みが零れた。


prev / next

[ back to top ]