Hot summer !!! | ナノ


  13.サボり魔


テニスは好きだけど、ランニングとか素振りが好きかって聞かれたら、それはちょっと別の話で。少し団体から離れて、お気に入りのポンタを飲みながら休憩。すると急に視界の上の方から何かが現れて、小さく息を飲んだ。

「あ、サボり魔居った。」
「……なんだ、名無しさんさんじゃん。」
「今ビビッとったやろ!」
「うるさい。」
「リョーマって可愛ぇんやな!」
「……っ!と、ところで名無しさんさんこそ何してたんすか。」
「んー……まぁ、木登り、的な?」

つまりサボりだってことはよくわかった。
小学生とかが鉄棒でよくやる“コウモリ”の状態で、名無しさんさんは何事もないかのように「マネージャーなんてほんまは面倒やし。」なんて話を続ける。その体勢で話し続けるとか、笑い堪えるこっちの身にもなってほしい。
すると不意に何かを思い出した顔をして、それから俺の眼前に何かが垂れ下がる。

「ドリンク、飲むやろ?」
「……あざす。」

ドリンクボトルを見せる名無しさんさんは、俺の返答に嬉しそうに笑う。こんなことで喜ぶなんてまるで子どもみたいだけど、「美味いやろ?」ってそんなに楽しそうな顔されたら、こっちまで楽しくなるから不思議。

「まぁまぁ」
「えー、素直に美味い言うてくれたらえぇやんー!」
「美味いっす。」
「……なんや、光と同じこと言うな、自分。」

光。その単語を聞いて昨日の出来事が脳裏に浮かぶのは、きっと俺だけじゃないはず。2人で一緒に寝ている姿を見てしまって、2人の関係が気にならないわけじゃない。けれど、布団に潜ってから聞こえてきた白石さんと仁王さんの会話では、ただの幼馴染、らしい。それ以上のことはきっと誰も知らない。

「仲良いんすか?」
「光?おん、めっちゃえぇよ!」
「ふぅん。」
「昔の光はめちゃめちゃ可愛かってん。あ、今も可愛ぇとこあるんやで!」

「例えば、」なんて昔の思い出話を次から次へと降らせる名無しさんさんの饒舌っぷりに、話の内容とは違う意味で笑いが零れた。仲が良いっていうのが紛れもない事実だってことは、今の名無しさんさんを見ればすぐにわかる。
けれど、不意に名無しさんさんのマシンガントークが止まったかと思えば。俺のすぐ横で誰かの足音が止まった。

「おい、何しとんねん。」
「あ、光!」
「試合するで。」

言うが早いか、財前さんは名無しさんさんを木から引きずり降ろして抱き留める。それから何事もなく立ち去っていくものだと思ったのに。俺を一睨みしてから背を向けた財前さんが何を思ったのかはわからない。名無しさんさんから聞いた思い出話誰にも喋んなってことか、何で名無しさんさんといるのかってことか。もしくはもっと別の何かかもしれないけれど。名無しさんさんが思ってる以上に、財前さんは名無しさんさんが。
まぁ俺には関係ないけど。



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