name is | ナノ


  07.


岩ちゃんの好意に甘えて、部活は行かなかった。バレーは俺にとってすごく大切なものだけど、名無しさんちゃんはバレーなんかと天秤にかけれない程にとてもとても大切な人だから。だから早く会わないと。会って、ちゃんと「ごめんね」って言わなくちゃ。

最後の授業が終わるとすぐに教室を飛び出した俺に誰かが「どうした?」と声を掛けた気がするけれど、そんなことに構う時間があるなら名無しさんちゃんの為に使いたくて無視した。鳴らし慣れている名無しさんちゃんの家のチャイムがやけに重たく感じる。気持ち悪い、吐きそうだ。こんな思いを名無しさんちゃんにさせていたのかと思うと、もっと気持ち悪くなった。

「……徹くん、どうしたの?」
「あ、の、えっと、その、」
「とりあえず、あがって。」

部活があるはずの時間に現れたことも、その俺が明らかに走ってきた様子なことも、全てが疑問だったのだろう、名無しさんちゃんは首を傾げる。それでも「お茶持ってくるね。」なんて、この間俺がしたことをもっと怒るとか、こう、何かあっても良いのに。
座って、お茶を飲んで。心を落ち着けた頃に名無しさんちゃんはもう一度疑問を繰り返した。

「それで、どうしたの?」
「名無しさんちゃんに話があって、」
「部活は?」
「岩ちゃんが何とかしてくれてる。」
「……そんなに大事な話なの?」

ごくり、名無しさんちゃんが息を飲むのが分かった。名無しさんちゃんがそこまで緊張するような内容じゃない気がするけれど、俺にとっては部活なんかよりも大切な話だってことは否定できない。今度は俺が息を呑み込んで「昨日のことなんだけど、」そう口にした。それだけで名無しさんちゃんも何の話か理解したようで、視線を足元に落としたのがわかる。

「あの、その、昨日はあたし……」
「ごめん!」
「え?」

何かを言おうとしている名無しさんちゃんの言葉を遮って、俺は頭を下げた。すると、きょとん、という効果音が似合うような名無しさんちゃんの気の抜けた声が聞こえてきて、俺は思わず顔を上げる。

「昨日、名無しさんちゃん来たことも、岩ちゃんに送ってもらったことも全部聞いた。」
「え、うん?何で徹くんが謝るの?謝らなきゃいけないのはあたしの方だから、ご」
「待って待って!謝らないで!」
「……?」
「俺が勝手にカッコいいところ見せたいとか言って強引に来るようにしちゃったし、一緒に行くとか気の利いたこともできなかったし、そもそも名無しさんちゃんが学校来れないのだって俺の所為なんだから名無しさんちゃんは謝らないで!」

早口で捲し立てる俺に、名無しさんちゃんはきょとんという表情を崩さなかった。けれど、2人して同じタイミングでお茶を飲み、一息吐いて、それから落ち着いた名無しさんちゃんは一言「やっぱりダメ。」と。

(20150506)


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