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  06.


明日の昼休み屋上。
その短文から岩ちゃんの意図は全く理解できなかった。昨日の練習試合のことならわざわざ屋上に呼び出したりするほどじゃない。事実、朝練の時にマッキー達に謝ってたし、俺にも「昨日は悪かったな。」って謝られたし。他に考えられることと言えば、いつもみたいに俺がモテることで何か迷惑を掛けてしまったとか。……よし、土下座する覚悟は出来た。

「お待たせ、岩ちゃん!」
「あぁ、」

出来るだけ明るく、あくまでも平常心を装って声を掛ける。そんな俺に対して、いつもより声のトーンが低い岩ちゃんは俺を見るなり軽く返事をして。それから「まぁ、座れ。」と。ここで何か適当に言い訳を紡ごうもんなら放課後まで正座させられかねないから、一先ず岩ちゃんに従って腰を下ろした。言わずもがな正座である。

「お前をバカだアホだウザいとは前々から思ってた。」
「ま、待って!ただの悪口じゃん!」
「それでも前までは我慢できた、が、今回は本気で呆れた。」
「……あの、何の話を、」
「昨日、着替えて体育館に向かう途中で名無しさんを見つけた。」
「え!」
「その反応をするってことは、やっぱりお前が呼んだんだな。」

淡々と岩ちゃんの口から紡がれていく言葉に、まさか名無しさんちゃんが出て来るなんて思いもしなかった。思わず、体が反応してしまう。それと同時に、来てくれたことへの嬉しさと、試合中姿がなかったような気がするという不安が渦を巻く。
そこで漸く、岩ちゃんが昨日姿を消した理由がわかった気がした。岩ちゃんだって名無しさんちゃんと幼馴染として仲良しだったし、今でもたまに遊んでいるって話は名無しさんちゃんから聞いてる。

「何で名無しさんを学校に来させた?」
「ど、どうしてもカッコいいところを見て欲しくて……。」

言うが早いか、体が浮かぶような感覚がして、自分の胸倉を掴まれていることに気が付いた。岩ちゃんの目は、逸らしたら殺されるんじゃないかってくらいに迫力があって、息を吸うことすら忘れてしまいそうなほど。

「自分のことばっか考えてねぇで名無しさんのことも考えろボケが!!」
「でも名無しさんちゃんも来たいって、」
「そうじゃねぇよ。一緒に来るとか、もっと何かできただろってことだ。」
「う……、」

確かに、名無しさんちゃんを一人で見に来させるなんてストレスでしかないのに、そんなことに気が付かなかったくらい浮かれてた。そんな自分が情けなくて恥ずかしくて。カッコいいところを見せるはずが、これじゃ気の利かないカッコ悪い男だ。

「……今日の練習、サボっても良いぞ。」
「え、」
「その代わり、ちゃんと謝ってこい。」
「ありが……、待って、俺が主将なんだけど。」
「は?んなもん降格に決まってんだろボケ。」

ありがとう、そう言えば岩ちゃんは何も聴こえなかったかのように「飯食うか。」なんて。こんなに優しい幼馴染み持ってる人、滅多にいないと思う。

(20150505)


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