name is | ナノ


  03.


いつから学校に行っていないのか、そんなことはもうとっくにわからなくなってしまった。家では家事を手伝っているけれど、これと言って楽しいことなんてなくて。勉強をしてもゲームをしても、ネットで知り合った友達と遊んでみてもあたしの心は埋まらなかった。
高校では心機一転して頑張ろう、なんて目標を掲げていたのだけれど、過去の噂は思ったより早く広まって結果的に不登校。それでも、高校に入ると同時に始めたバイトのおかげで、同世代の知り合いが増えた。

徹くんはといえば、ずっと続けているバレーを高校でも続けているらしく、遊べるのは週に一度だけ。聞けば、あたし達が通う高校はバレーボールがそれなりに有名な高校らしい。そんなこと知りもせず、徹くんが受けるところを一緒に受けた。結局、まともに学校に行っていないのだからどこでも良かったのかもしれないけれど。



「うん、美味しい!」
「ありがとう。」

週に一度だけしか遊べないからって張り切って作ったケーキを頬張って、徹くんは顔を綻ばせた。「プロのパティシエになれると思うよ。」なんて言葉が本気かお世辞かはわからないけれど、あたしにとっては十分な褒め言葉で。本当は「ありがとう」の一言だけじゃ抑えきれないほどの嬉しさに、思わず顔がにやけた。

「じゃああたし、徹くんの為にもっと美味しい料理作ってあげるね。」

徹くんが忙しいのは知っているけれど、それでも沢山あたしに会いに来てくれるように。昔みたいに、毎日徹くんと笑いあえたら、って。そんな願いを込めてそう言えば、徹くんは嬉しそうににっこりと笑う。それから一言。

「じゃあ俺ももっとバレー頑張るね。」
「…………あ、うん。頑張ってね。」

今、あたしはちゃんと笑って答えられたのだろうか。
徹くんがそういう答えをすることが全く分からなかったわけではないのに、崖から突き落とされたような感覚がした。「そうだ、この間テレビで紹介されたんだよ、俺!」なんていう徹くんの話に相槌を打ちながらも、まるでそれは額縁の向こう側の話みたいで。違う世界の住人。そういう言葉が今のあたし達にはピッタリかもしれない。

だからね、我儘を言わせて。



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