name is | ナノ


  02.


高校に入ってから俺と名無しさんちゃんが会えるのは、部活がオフの日、殆ど週に一度になってしまった。けれど、俺にとってはその少ない時間でさえも幸せに思えて。数人の人にしか心を開いていない彼女が俺に笑顔を向けてくれるということは、まるで信頼の証のようなもので嬉しかったから。
一方で、彼女が不満を抱いていることもわかっていた。

「徹、最近バレーの話ばっかりだね。」
「あ、ごめん。つまんなかった?」
「ううん、楽しいよ。」

じゃあもっと楽しそうな顔してよ、言葉を言えずに飲み込む。
友達がいない名無しさんちゃんにとって多くの人に囲まれるバレーボールの楽しさも、仲間と勝利を分かち合う喜びもきっとわからない。けれど、彼女にとって最も重要なのはそんなことではなくて。

「楽しいけど、あんまり会えないし、」
「……うん、」
「あたしの知らない徹がいっぱいいる。」
「……うん、そうだよね。ごめんね。」

寂しい。名無しさんちゃんがその言葉を紡ぐことはなかったけれど、紡がれなくてもわかってしまった。俺も、もう一人の幼馴染である岩ちゃんもバレーボールに集中している今、名無しさんちゃんが寂しいと感じるのも無理はない。部活のオフは週に一度だというのに、そんなオフの日でも口を開けばバレーの話ばっかりなのだから。
好きな人に自分の好きなものを知ってもらいたかっただけなんだけど。そんな理由を堂々と言えるほど勇気があるわけでもなくて「ごめんね。」と一言。そうすれば、名無しさんちゃんは不意に俯いて、ぽつりと言葉を零す。

「バレーがなかったらもっと一緒に居れるのに。」

小さな声でそう言う彼女が真剣だということはわかっているけれど、思わず顔が緩んでしまった。真剣な一言だからこそ、本気で嬉しかったからだよ。



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