name is | ナノ


  01.


俺の隣の家には幼馴染が住んでいる。彼女の名前は及川名無しさん。家族じゃなければ親戚でもない、偶然だけれど運命的な距離に彼女は居た。彼女と俺は、家が隣同士ということもあってすぐに仲良くなり、小学校も中学校も同じで。勿論、高校も同じ。
けれど、彼女が学校に居る姿を見たのはほんの少しだった気がする。

「名無しさんちゃん、学校行こうよ。」
「行かない。」

ある日、彼女は学校に行くことをやめた。
原因はよくわかっているつもり。自分で言うのは気が引けるけど、俺は所謂クラスの人気者というやつだ。その所為か、俺の周りにはいつも人が溢れていて、いつの間にかファンクラブのようなものが存在していたらしい。
ファンクラブの面々にとって、俺と幼馴染で仲が良くてしかも同じ苗字の名無しさんちゃんは妬みの矛先として打って付けだった。それが事の発端。名無しさんちゃんは少しずつ女子グループから除外されていった。

「及川くんも、変な噂立てられて可哀相。」
「俺は大丈夫だよ、ありがとう。」

笑顔を向けた女の名前なんか知らない。名無しさんと俺が腹違いの兄妹だとか変な噂を流したのは自分のくせに、そんなどす黒い感情を自分の中で処理しなければ、自分自身が壊れてしまいそうだった。

「名無しさんちゃん、俺バレーボール始めることにしたよ。」
「バレーボール?」
「うん、少し興味があって。」
「良かったね。」

俺の新しい興味の対象を素直に喜ぶ名無しさんに、俺は笑顔を向ける。本当のことなんて言えるはずがない。怒りを収められなくてバレーを始めた、なんてカッコ悪いじゃないか。
「頑張って強くなってね。」そう言ってくれる名無しさんちゃんにどんな顔をすればいいのかわからなくて、俺は名無しさんちゃんの肩に顔を埋めて「うん、」とだけ。

苗字が同じ、たったそれだけのことなのに俺達には大きすぎたみたいだ。



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