君の代わりに | ナノ



15.


「とりあえず、名無しさんちゃんは俺らが交代で背負って行こか。」
「は、」
「え、背負っ……!?」
「おん。歩かれへんのやったらそうでもせんと、」
「ま、待って待って待って!」

歩けないならこうするしか方法はないと思った自分の発想はそんなに乏しかっただろうか。名無しさんちゃんにとってこの方法は慣れたもんやっと思っとったのに、しゃがんで背中を向けたけれど一向に背中に重みが来なくて。チラリと振り向けば赤面して、まるで後ずさりのような体勢の名無しさんちゃんが目に映った。ついでに、その横で溜息を吐く財前も。

「……えっと、」
「あ、あたし後から行くんで、蔵ノ介先輩は先行ってください。」
「せやけど名無しさんちゃん、足は、」
「光が居るから大丈夫ですよ。」

財前に懇願の目を向ける名無しさんちゃんに「しゃーないな」なんて答える財前やけど、満更でもなさそうなのは見ればわかる。それに対して「おおきに、光」て答える名無しさんちゃんも、きっと本気で財前を頼りにしとるんやと思う。
助けられることがあれば何でもするつもりやったし、ほんの少しでも役立てればえぇと思っとった。せやけど、そもそも俺が助けられることなんてないんとちゃうか。

「……ほな、財前頼むで。」
「わかりましたわ。」

苛立ち、やろうか。それを財前にぶつけたところでどうにもならんことくらいわかっとる。それでも、笑顔と一緒に放ったはずの言葉はどこか冷たくなってしもうて。「蔵ノ介先輩、ごめんなさい。」なんて、名無しさんちゃんは何も悪くない。

「何で謝るん。部活のことは気にせんとき。」
「あ、いや、それもですけど、」
「ほな先行くわ。」

名無しさんちゃんの言葉を聞かへんようにしたのは、俺が弱いから。「頼れなくて、ごめんなさい。」なんて言葉、聞きたくもない。

「休憩終わりや。進むでー!」なんて部員に声を掛けて移動を再開するけれど、頭の中は名無しさんちゃんのことでいっぱいで、もやもやとした感情が胃の辺りでぐるぐると渦巻く。師範やら小石川やら、しっかり者に部員を任せてただ黙々と道を進む俺を気にかけてか、謙也が黙々と隣を歩くのが分かった。今は親友の大切さを噛み締めてる場合ちゃうけど、そういうところは謙也を見習うべきなのかもしれへん。

「……謙也、」
「おん?」
「何か聞きたいことあるんやろ。」
「あー、まぁ。せやけど聞かれたくないこともあるやろうし。」
「謙也にしては優しいな。」
「謙也にしては、って何やねん。」

確かに、謙也にしては、は失礼やった。謙也やからこそ、ここまで気を使えるんやろうな。こんなことは絶対に口に出して言わんけど、俺もこんなに気を使える男やったらよかったのに。
名無しさんちゃんには、きっと俺の気持ちがバレとって、せやからあの「ごめんなさい」が生まれたんやと思う。俺自身、心のどこかで俺の気持ちに気付いてほしいと思っていたのかもしれないし、隠し通せていたかと言えば自信を持って頷くことはできない。自分の気持ちに気付いたのもつい最近の話やし。

「聞きたいことっちゅーか、言いたいことっちゅーか、」
「何やねん。」
「……なんや、白石らしくないなぁ、て。」
「は?」
「俺の中の白石は、悩む暇があったら次に向かって考えるっちゅーイメージやったから。」

謙也が言わんとしとることはわからなくもない。確かに俺は過去のことより未来のことを考えるタイプやと思う。それを謙也に言われると、何かを見透かされているようで、つまり俺がそんなにもわかりやすい態度だったのかと苦笑いが零れた。ほんまにカッコ悪い。

「……おおきに、謙也。」
「おん。」

(20141217)


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