君にECSTASY | ナノ





「名無しさんちゃん、やろ?」
「え?は、はい!」

大阪に着いて『お母さんの親友』を探していると、遠くから走ってきた綺麗な女の人に話し掛けられた。この人が『お母さんの親友』本人らしい。けど、お母さんより綺麗だし若々しいのに、お母さんの親友だなんて疑いたくなる。

「やっぱり美人やなぁ!可愛ぇわ!」
「あ、ありがとうございます…」
「なんや、敬語なん使わんでえぇよ?あたし等今日から家族やってんから!」

何と言いますか、威勢が良い。細くて華奢な体つきの割には抱き着く力が強くて、苦しいとも言えないあたしは我慢するしかない。ちらりとポケットから見えた女子高生みたいに派手な携帯に少し驚いていると、突然後ろから誰かに話し掛けられた。

「名無しさんねーちゃん!あたし友香里や、よろしゅう!」
「あ、うん、よろしく。」
「春に1番上のねーちゃん出てったばっかりやから、ちょお寂しかったんや!せやから仲良うしてな?」
「こちらこそ、よろしくね。」

笑ってみせれば笑い返してくれて、それだけで嬉しくなる単純なあたし。それにしても何て可愛いんだろう。まぁ、あんな若々しいお母さんから生まれてくればこうなるに決まってるんだけど。なんて考えていたら、ふと、誰かに肩を叩かれて。振り向けば、そこには眩しいくらい爽やかな笑みを向けた青少年が立っていた。もしかして。

「俺、蔵ノ介や。よろしくな、名無しさんちゃん。」
「よ、よろしく…」

漫画でよく言う『太陽よりも眩しい』って、きっとこういうことなんじゃないかな。なんて妙に納得しちゃうあたしは今、蔵ノ介くんを見て『太陽よりも眩しい』って思ってる。どうしちゃったんだろう、あたし。

「緊張しとる?」
「少し…」
「ははは、まぁゆっくり慣れればえぇよ。」
「うん、ありがとう。」

頭を撫でてくる手が何故かすごく心地良くて、それだけで大分安心出来た。蔵ノ介くんの手はマジックハンドみたい、なんてちょっと馬鹿みたいだけど。

「あ、因みに俺と名無しさんちゃんは同い年やから。」
「え!?」
「っ!び、びっくりしたわ…。どないしたん?」

まさか。驚いた拍子に大声をあげれば、蔵ノ介くんはもっと驚いた様子で。だけどあたしにはそんなこと気にならなくて、蔵ノ介くんが同い年だということに驚きを隠せない。
だってこんなに大人っぽくて『お兄ちゃん』って呼びたいくらいなのに、そんな蔵ノ介くんが同い年だなんて。これじゃあたしがすっごく餓鬼みたいに思えちゃうじゃん!

「ごめん、何でもない。」
「そうか?それならえぇんやけど。」

それから白石宅に向かって、着いてすぐにあたしは部屋に運んだ。友香里ちゃんが言ってた『1番上のねーちゃん』が使っていた部屋が、これからあたしが使う部屋らしい。入ってみると既にあたしのベッドやらタンスやらが運び込まれていて、あたしがやるのは小さい荷物だけらしい。

「広い…」
「オトンが稼いどるからな」
「わっ!?」
「そない驚かんでも…」
「ご、ごめん」

でも流石に、後ろから急に声をかけられて驚かないなんて難しい。変な声まで出しちゃって恥ずかしいったらありゃしない!

「ところで、まだ片付け終わってへんやろ?」
「うん、終わってないけど…どうしたの?」
「手伝う人、募集してたりせぇへん?」
「!」

この世にこんなに素晴らしい人が存在するなんて思ってもみなかったあたしは、思わず目を見開いた。しかも強制的じゃなくて、遠回しなところが尚更良い!

「だ、」
「?」
「大募集してる!」
「ははっ、そかそか。ほんなら手伝うで。」
「ありがとう!」

それから1時間くらいした頃、殆ど片付いたところで居間から大きな声が聞こえた。どうやら昼ご飯らしくて、蔵ノ介くんはあたしと顔を見合わせるとニコッと笑って「行こか」と言って立ち上がる。それに合わせてあたしも立ち上がろうとすればまるで紳士みたいに手を差し出されて、思わずドキッとしちゃうあたしってやっぱり単純。



  →みつめないで!
     単純なあたしはときめいちゃうの


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