惚れてください | ナノ


04


「あ、謙也と蔵だ。」
「……そっすね。」
「やっぱり足早いね。」
「……そっすね。」
「あ、転んだ。」
「…………はぁ。」

衝撃の告白から数分。
光が何か喋れとか言うから、小さい脳みそをフル回転して出した会話がこれだった。ちょうどここから見えるグラウンドで、あたしの友達であり光の先輩である二人が体育をしていたから。会話を繋ぐにはちょうどいいと思ったのに、喋れと言った本人は何度も同じ言葉を繰り返すだけで。
あたしの話はつまらないのかな、なんて考えると少し心が痛い。

「あ、言うときますけど、別に名無しさん先輩の話に興味ないわけやないですよ。」
「え、は!?」

あたしがわかりやすい顔をしていたのだろうか、光の察しが良すぎるのだろうか。ふとそんなことを言い出す光に驚きの声が溢れた。

喋るネタすら思いつかへんような可哀想な脳みそで一生懸命考えた会話が、部長やら謙也さんやらほかの男の話っちゅーんが気に食わなくて意地悪しただけです。すんません。

光はそう言うと、フェンスに指を絡めてグラウンドを見ていたあたしを後ろから包み込んだ。強めに腕を締め付けられているせいか、振り返ることはできない。光は今、どんな顔をしているんだろう。

「光、」
「今だけこっち向かんといてください。」

恥ずかしいんで、と付け足す光が真っ赤な顔をしてたら嬉しいかもしれない。
けれど、それがつまり好きという結果になるかどうかがわからない。そういえば、今まで恋愛したことあったっけ。好きな人はたくさんいる、けれど、それが恋愛だと考えたことはない。恋愛って、こう、ドキドキするのが普通だと思うから、きっと今までの好きはそれじゃない。

ふと、風が吹いて光の匂いを感じた。いい匂い。締め付けられている腕はやっぱりあたしより太くて、けれど太すぎず。しっかりと筋肉がついていて男らしい。そう、男。


prev / next

[TOP]