03
「ほな、授業始まってまいましたんでここで俺と話すっちゅーことで。」
ね、えぇでしょ?
くい、と首を傾げて聞くのは反則だと思ってしまうくらいに、光は可愛い視線をこちらに向ける。そんな顔されたら断れない。それに、本鈴がなってしまったのに授業に戻りたいと思うほど、あたしは優等生じゃない。
「わかった、いいよ。」
「っちゅーても、さっきので気付いてくれへんほど鈍感やと思ってないんで。」
「……」
「ほんなら一応ちゃんと言いますわ。名無しさん先輩、好きです。」
何も答えられないあたしの背中を押す、ではなく背中からどつくように、光はその一言を投げつける。けれど、好きという言葉にどんな反応をしていいのか。告白されたのなんて初めてだし。
光も少しは緊張しているのか、視線を合わせたり外したりと少しだけ忙しない。こんな光は初めてで、話の真剣さがよく伝わる。
「……あたし、」
「あ、ちょお待ってください。」
「え、」
「この授業終わってからがえぇです、返事。」
「な、なんで?」
とにかく何か返事をしなければいけないと思って口を開けば、急に言葉を遮られて。しかも返事は授業の終わりがいいだなんて何事かと聞き返す。すると、光が自信を含んだ笑みを見せるから、思わず首を傾げた。擬態語で示すなら、にやり。
「惚れさせたりますから。」
しれっとそういう光に「は?」と言ってしまったのは、反射。馬鹿にしているとか、呆れているとかそういう感情は含んでいない。強いて言うなら「意味がわからない」ということくらい。惚れさせるという言葉を吐く光がカッコイイから良いものの、光じゃなかったらこんなナルシスト発言をするような人は、ちょっと。
すると急に顔を近付けてくる光に、あたしの体温が急上昇するのがわかった。
「な、ななななに!?」
「名無しさん先輩、えぇ匂いするから。」
「だからって近すぎ!」
「……顔、真っ赤ですけど。」
「だっ、だから近いんだってば!」
顔を離すことなく耳元で「えぇ匂い」だなんて言われたら、顔が赤くなるのは仕方がないことだと思う。それに、明らかにわざとらしいその仕草にも羞恥を感じてしまって。
耳元だったし、いつもより低い声だったし。それに、か、かっこよかったし。あれ、これじゃ光を好きみたいじゃん。
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