惚れてください | ナノ


05


「光、」
「なんすか。」
「いや、なんでもない。」

男。そう意識した瞬間から心臓がドクドクとうるさい。さっきまでの立っていた状態から、強制的に光の足の間に座らされている状態に変わった今、さっきよりも触れている部分が多くて尚更。不意に膝カックンをされてこうなったわけだけれど、光の意図が掴めない。

ドキドキしてるの、聞こえたらどうしよう。

「名無しさん先輩?」
「ん?」
「いや、さっきから拒否せぇへんから期待してもえぇんかなって。」
「そ、それは!光の力が強いの知ってるから!拒んでも無意味かなって思って!拒否しないだけで!」
「そない力強く言われても言い訳にしか聞こえないっすわ。」
「っ、」

光の位置からあたしの顔が見られないだけ幸いだと思った。自分で見えているわけじゃないけれど、顔が赤くなってるであろうことは分かってる。しかも、後ろから「くっくっ」という笑い声とともに「そういう可愛ぇところが好きなんですけど。」と聞こえてきたもんだから全身が熱い。というより、光はもしかしたら全てわかった上で、あたしの反応を楽しんでるんじゃないかとすら思えてくる。

かと思えば、急に真剣なトーンで「せや、」なんて不意打ちにも程がある。

「名無しさん先輩、こっち見てください。」
「何?」
「ひとつ聞きたいんですけど、もしも先輩が俺のこと好きやなくても、このままの関係でいてくれはります?」
「……、」
「名無しさん先輩、」
「……無理、かな。」

数センチしかない距離で真剣に見つめてくる光をあたしも真剣に見つめ返した。
無理ということは、つまりあたしの最終的な答えがイエスだとしてもノーだとしても、関係が壊れてしまうということになる。光はとても良い後輩だと思ってるし、今まで友達として暮らしてきた日々はすごく楽しかった。だから壊れるのは辛い。だけど、だからこそ、光の想いを知った以上は友達には戻れない気がする。

答えた瞬間、光は驚いた顔をしたけれど、それはすぐに微笑みへと変わって。仕方がない、とでも言うかのようなその微笑みは、さっきまでの光とは違って弱々しく見えた。



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