02
大事な話、というのが何なのか悶々と考えていると、光が急に「ふは、」と吹き出した。
「な、なに!」
「いや、名無しさん先輩があまりにも真剣な表情しとるから、つい。」
そう答えてクツクツと笑う光を見ながら、ため息をひとつ零す。緊張していたのに、光が急に笑ったことでそんなものは何処かへ飛んでいってしまった。
むしろ良かった、と言えなくもないけど。
光がわかりやすい人だとは思ってなかったけれど、今日ほどわからないことは初めてだと思う。真剣な顔、悲しい顔、笑顔。見つめては目をそらすくせに、腕は未だに掴まれていて。
「ところで話っていうのは、」
「あー……」
「何か大事な話なんじゃないの?」
「……」
「ねぇ、ひか」
る。
言いたかったはずのそれが音となることはなかった。疑問符すら浮かばない空白の時間が流れて、やっと紡いだ一言も「え、」という一文字だけ。
今、確かにあたしはキスをされた。けれど、どうしてキスをされたのかわからない。キスをするのって好きな人じゃないの。光ってそんなに簡単にキスしちゃう人なの。いやいや、見た目はそうかもしれないけれど中身はそんなに軽い人じゃないって知ってる。
「名無しさん先輩、」
「……」
「名無しさん、せんぱい……?」
「……」
「怒りました……?」
「……は、……なの?」
「え、なんて?」
黙り込むあたしに、光は不安そうな表情を浮かべる。けれどそんなことは頭に入ってこない。「光はあたしのことが好きなの?」と聞きたかったはずの声もうまく出せずに、光に聞き返される始末。
そんな自惚れたセリフをもう一度繰り返すことなんて出来ずに俯けば、平然とした様子で「言いたいことわかりました?」なんて、光には羞恥というものがないらしい。
何も答えられずに空白の時間を過ごしていると、意識の遠くの方で本鈴の音が聞こえた。
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