惚れてください | ナノ


01


「……何でかな、」
「何がですか?」

とぼけたフリなのか本当にわかっていないのか、後輩の財前光は悪びれもなく聞き返した。
私の隠れスポットだった屋上を教えたのは、彼がちょうど昼食の場所を探していたから。眺めも良い、風通しも良い、日陰もある、滅多に人は来ない。ここなら彼も気に入ってくれると思っただけ。
けれどこの状況から察するに、光はもしかしたらこの場所を気に入ってはくれなかったのかもしれない。

「あたし授業があるから……、」
「で?」
「教室に戻らないと。」
「……そんで?」
「そんで、って……。」

屋上のドアを背もたれにして立つ光は、あたしを返してくれる気なんか微塵もないだろう。少しばかりの意地悪かとも考えたけれど、いつも悪戯の時に見せる顔が見られないから、そういうわけでもないらしい。
するとガシリと腕を掴まれて光があたしをキッと睨むから、思わず「ひっ!」と息が漏れた。そうすれば今度は悲しい顔をする光に、あたしは罪悪感。

「迷惑やってわかっとります。こないな後輩との時間よりも授業の方が大切やってわかっとります。せやけど、俺かて中途半端な気持ちで先輩に迷惑かけとるわけちゃいます。」
「ご、ごめん……つまり、その、どういうこと?」
「大事な話あるんっすわ。」

光の声はいつもより少しだけ低い。けれど、怒っているとかそういう感じじゃない、と思う。あくまでもあたしの勘でしかないけれど。掴まれているあたしの腕から微かな震えを感じるのも、気のせいじゃない気がする。

光が大事な話って何だろう。何か怒らせることはしただろうか。怒らせていないにしろ、光の気分を害するようなことをしたのか。……悪いけど、全く思い当たる節がない。じゃあ他に大事な話といえば……、え、何だろう。





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