頂き物:今はまだ、このままで。 [ 2/9 ]

俺には幼馴染がいる。
同い年ぐらいの日本人の女の子で、背は小さくて体は細め。
あどけない顔立ちは俺よりもずっと年下に見えて、東洋人特有の黄みがかった、白磁器のような柔肌にすらりとしたスタイル。
本来黒髪黒目だったという彼女の絹のような髪は今は銀色、強い意志を秘めた真っ直ぐな瞳は俺やバージルと同じくアイスブルーになっている。
まるで人形のような可愛さと美しさを両方持っている彼女に魅了されない男はいない。




外見だけで言うならば、だ。




「ねぇ、ダンテ」
「なんだ?」
「バット○ン×ジ○ーカーってありだと思うの」

事務机の椅子に座り、雑誌を読んでいた俺は顔を上げて件の彼女を見る。
俺の幼馴染――鈴がソファーに寝そべって見ているのは映画化もしているダークヒーローのコミックだ。

「何の事だ?」
「普段ジョー○ーが攻めでもいいの。攻められるバットマ○が見たいから。でも調子乗り過ぎてバッ○マンが本気出してあうあう!みたいな」
「またお前の好きなホモセクシャルか」
「ベーコンレタスと言ってほしい」

胸元に開いたコミックを乗せ、鈴は仰向けで首を後ろに反らして俺を見て、足を組みかえる。
薄いシャツ越しに分かる小さな胸の膨らみ、ショートパンツによって剥き出しになっている白く柔らかそうな足に思わず目が行ったが、すぐに雑誌に視線を戻した。

彼女はオンオフの差が激しい。

仕事の時は最小限度の露出のきっちりした服装で誰も付け入る隙を見せないのに、家に居る時はショートパンツにシャツ、しかもたまにノーブラと言うかなりラフな格好でいる。
俺やバージルが男だと言う事を分かっててやっているのかと声を大にして言いたい。
が、彼女の場合それがどうしたと素で返してきそうだ。
なんで変な所でズレてるんだこいつは。

「あ」
「なんだ?」
「その女の人の太腿いいね。舐めたくなる」

思わず雑誌の表紙を机に伏せる形にした。
鈴がちえっ、と舌打ちをする。

「お前はおっさんか」
「おっさんで何が悪い」
「変態」
「褒め言葉だ」

どうだ、とでも言いそうな顔でそれを言い、再び彼女の視線はコミックに戻る。
……お前の太腿の方が、俺は舐めたい…って、何を考えているんだ俺は。
掌で顔を覆う。

俺の提案で、昔みたいに一緒に住むことになった愛しの彼女。
小さい頃から数年経った今でも愛しい気持ちは変わらず、しっかりしているけどどこか抜けていて、大人びているけどどこかあどけない、厳しいけど優しい彼女は年を経てさらに綺麗になっている。
それを本人に直接言えば照れてしまうと思うけど。
それでも、この思いを伝えることが出来ない。


彼女には、思い人がいるから。


普段そのことについて全く口にしない彼女だけど、たまにすごく寂しそうな、どこか遠くを見るような目をする。
お前にそんな想いをさせている奴は誰なのか、とかどんな奴なのか、なんて、野暮なことは聞かない。
きっと彼女が想っているのは、この世界に来る前の、元の世界に居る奴なのだろう。
度々彼女が図書館に行き、錬金術や魔術に関する本を読み漁っていることも知っていた。
彼女が俺にそれを言わない理由も知っている。
昔俺が帰って欲しくないと駄々をこねたことを気にしているからだ。

「ダンテ」
「ん?」
「どうした?」

仰向けからうつ伏せに体勢を変えた鈴がこちらを見上げてくる。

「難しい顔してる。考え事?おねーさんが聞いたげるよ?」
「眠気が来ているだけだ」
「そ。だったら昼寝したら?電話番は私がしておくから」
「…そうさせてもらうか」

椅子から立ち上がってソファーに近づく。
足を時折ぱたぱたと動かしながらコミックを読む彼女とソファーの背もたれの間に体を滑り込ませ、腕を彼女の腰に、足を彼女の足に絡ませる。
びくりと彼女の体が強張った。

「何?ベッドで寝ないの?」

冷静を装うと彼女の声が変にうわずっているのが分かる。
いたずらが成功したみたいで、笑みが零れた。

「今日はここで寝たい気分だ」
「なら私が退くよ」
「駄目」
「は?」
「俺の抱き枕」

絡ませている腕の力を強くする。
彼女が咄嗟に掴んでいた腰の拳銃から、ゆるりと手を放した。
それにこっちも息を吐く。
再会したての頃は触れようとしただけで容赦なく発砲されていた分、今はかなり進展している。

「ダンテ、ちょっと退いて」
「嫌だ」
「ブランケット取ってくる」

ゆるめた腕の中からするりと彼女の温もりが消える。
それが何故か寂しく感じたが、小さく軽快な足音が離れて、再び元に戻って来る。
ふわりと上からブランケットが掛けられ、横に彼女が戻って来た。
再び腕と足を絡め、代わりに空いた腕を彼女の頭の下に滑り込ませ、柔らかな銀糸に鼻を埋めた。
彼女が使っているシャンプーの匂いが肺に満ちたら、幸福感に包まれた。


今彼女に求めても、彼女は俺のものになってくれないだろう。
それでも、これくらいのスキンシップを許してくれることに期待していいのなら。
まだ俺にも望みがあるのなら。


今はまだ、このままで。


END



*****


素敵夢小説サイト『箱庭』のなまり様からいただきました。
駄絵を押し付けたらこんな素敵なもの書いて頂いてしまったよ私禿げ散らか死できる今なら!!

なまり様ありがとうございました。
鈴ちゃん可愛いよ鈴ちゃ(ry



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