頂き物:仲良きことは傍迷惑かな [ 6/9 ]


目覚ましの音というのはひどく耳障りだと思う。音量は別として、劈くようなあの高音を朝から聞くなんて拷問のようなものだ。わざわざ朝から不機嫌になるなんて馬鹿馬鹿しい。
故に、私は目覚ましをセットしない主義である。
加えて、私は重度の夜型人間だ。夜中の三時まで起きているなんて日常茶飯事で、ひどい時には寝ると起きれないので寝ないで学校に行くこともある。
さて、ここで私の昨日の行動を振り返ってみよう。
午後6時に帰宅、食事や風呂や課題なんなを済ませたのは9時頃で、それから11時まで映画を見て、若に借りていたゲームを朝方の4時までプレイして就寝。
何が言いたいかって、つまり、
「寝坊した!!」
全速力で支度を済ませ、朝食代わりのゼリー飲料を咥えながら家を飛び出す。自転車が無くなっているということは、同居人のモードレッドは既に登校しているらしい。起こせよ。
(あいつ学校着いたら殴ってやろう。)
家の門の側に立てかけてあるスケボーをひっつかんで飛び乗る。学校までは下り坂なので、これを使った方が徒歩よりずっと速い。
「間に合えよ……!」
そう祈りながら地面を蹴って加速する。その先に転がる石にキオが気付いたのは、がたんとスケボーが浮いた時だった。




ガラリとドアを開けて入ってきた見慣れた白メッシュ入りの黒髪に、若が片手を上げて挨拶する。
「お、モードレッド。はよー。」
「はよ。」
「若とネロか。お早う。」
小さく微笑む彼の横に、もう一つの黒髪が見当たらずネロは首を傾げた。
「あれ、アンタ今朝は一人なのか?」
「チャイムがなるまでには来るさ。」
「あぁ…寝坊か。」
勉強もスポーツも出来るのに、キオは妙な所でズボラなのだ。
「ギリギリまで起こしていたんだがな…」
無反応だった、とため息をつくモードレッドは、きっと後でキオに殴られるのだろう。
「アンタも大変だな。」
苦笑を交えてそう言うと、慣れていると言わんばかりにウインクを返された。
「おーす、お前ら席つけー!チャイム鳴るまでに座らないと遅刻になるからなー。」
「初代、はよー。」
元気にドアを開けて入って来たのは担任の初代だ。
初代とは部活の関係で仲が良く、若の性格上呼び捨てにするのも無理はないのだが、若の兄のバージルはそうは思っていないらしい。ゴンッと鈍い音をたてて若の頭に拳骨が落ちた。
「一応でも先生を付けろ、愚弟が。」
絶対零度の視線を若に向けるバージルに、初代がくすくすと笑う。
「一応じゃなくてちゃんと付けてくれよ。」
「ふん…」
初代の言葉に鼻を鳴らしたバージルを若が指差す。その表情はさながら悪ガキ大将のようである。
「やーいバージル怒られてやんのー!」
「あぁそうだ、ネロ、この前の件だが…」
「え?あぁ、あれな…」
「ちょっとオニイチャーン!?」
「低レベルすぎて実兄に無視される高校生、若。」
「ぐっ…!」
モードレッドの冷静なツッコミに凹んだ若の後ろで、ドアが外れんばかりの勢いで開けられた。恐らくキオが着いたのだろう。
「モードレッドてめぇふざけんな起こせよ狩んぞゴラ!!!」
皆の振り返った先で女子とは思えない暴言を吐いたのはやはりキオで、しかし彼女はいつもの状態ではなかった。
「ちょっ…!?」
額から、大量の血をだらだら垂らしていたのだ。
「キオ!!」
慌てて駆け寄ったモードレッドがポケットからハンカチを取り出して、傷口に触れないよう顔の血を拭う。
その腹にキオの膝蹴りがめり込んだのは、誰もが見なかったことにした。
「お…お前、本当どうしたんだ?」
初代が戸惑いつつ問いかけると、キオは時計をちらりと見てから面倒臭げに口を開いた。
「…下り坂で転けた。軽傷だ。」
「はぁ!?ってかそれは軽傷とは言わねえ!保健室に…」
「放っとけば治る。」
キオはふてぶてしくそれだけ言うと、モードレッドからハンカチを受け取って自席に着いた。つくづく自由な奴である。
すると、半ば呆然としていたクラスに突然二人の男が入ってきた。生活指導の二代目と保険教師の髭だ。
「ちょっといいか。」
「え?あ、え、二代目?」
「うっわ、お前なんで教室にまで来てんの。しかも髭センセまで連れて。」
嫌そうに眉根を寄せたキオは、二代目を"お前"呼ばわりできることからも分かる通り二代目とものすごく仲が良い。
そのキオが二代目にここまで嫌な顔をするのは、大抵お説教が待っている時だった。
「生憎、ウチの学校はスケボーでの登校は許可してないんでな。」
「何故ばれたし。」
「窓から見えた。あと転んだのも見えた。」
「な ん だ と 。」
「まだまだ甘いな。」
「転がってた石が悪い。」
「気付かなかったんだろう。」
「急いでたんだよ。」
「自業自得だ。寝坊したんだろう。」
「何故ばれたし。」
「それくらい猫でも分かる。」
ぽんぽん進む会話についていけない周りは、やや呆れたように二人を見る。
普段口数の少ないこの二人が話すと、何故かいつもこうなってしまうのだ。
「あー、二代目?お嬢ちゃんの手当てがしたいんだが…」
見かねた髭が声をかけると、二人は同時に、あ。と声を漏らした。
「すまない。」
「ごめん。」
「いやそんな無表情で言われても。」
「「てへー。」」
「…………」
無表情かつ棒読みで舌を出してへぺろポーズを取る二人に、周囲は沈黙以外の手段を選べなかった。



【仲良きことは傍迷惑かな】






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