頂き物:たまの喧嘩 [ 4/9 ]


「ねぇ」
「なんだ?」
「最近私への依頼が減ってるんだけど、何か知ってる?」

鈴のバージルへの問いかけに、ダンテは顔を上げた。
事務所に帰る時に鈴の機嫌が最高潮に悪いことを知っていたスコルは、伏せの状態で事の成り行きを見守る。

「知らないな」
「そう。でもね、今日署長さんから依頼は全部ここで受けているって聞いたんだけど」
「何が言いたい?」
「私への依頼、バージルが取ってるでしょ?」
「決めつけるな。愚弟もいる」
「あいつが週1日以上働いたところを見たことがない。それに比べてバージルはちょこちょこと居なくなるよね?それが全部、私への依頼があった日と重なるんだけど」

テーブルの上に叩き付けられたのは、書類の束。
本来鈴が受けるはずだった案件の内容だ。

「どういうことか説明して」
「説明がいるのか」
「もちろん」
「簡単だ」

開いていた本を閉じ、バージルが鈴に向き直る。

「お前は使えないからだ」
「………は、」

突如言われた言葉に、鈴は言葉を失った。
聞いていたスコルは顔をしかめる。
主である鈴は、気高いフェンリルの息子で太陽を追う者であるスコルが認めた力の持ち主だ。
それを使えないと言うのは、一体。

「私が、使えない?」
「ああ」
「は、一体何を根拠に」
「脆弱な人間の雌の体にそれに伴う身体能力、制約だらけで少しでも傷付けば悪魔を誘き寄せる体質、『死認識の眼』という特殊な能力を持つが精神への負担をかけ、さらに視神経への圧力が掛かるために多用も出来ない。これが使えると言えるのか?」
「……でも、仕事にそんなの関係ないでしょ?他にも悪魔を狩る人間なんていくらでもいるじゃない」
「幾らでも……か。そいつらが次の年も同じく悪魔を狩っていられるのか?」
「……それは」
「大部分が悪魔に殺され、残りは力の差を思い知って辞めていく。実際に悪魔を狩れると断言出来る人間はほんの僅かだ」
「でもレディも悪魔を狩っているじゃない」
「お前とあいつを同列に並べるな。お前の方が身体能力も体力も劣っている」
「…………」
「それを補うためにトレーニングしているが、無駄だな。限界が眼に見えている」
「じゃあどうすればいいんだよ!」

ばん、と強くテーブルを叩いた。
薄色の青が、バージルを射抜く。

「仕事を辞めて家事に徹しろと?私はあんたらの世話人でも家政婦でもない!ましてや養ってもらうつもりなんてさらさらない!」
「外に出て死の危険と隣り合わせになるか、それとも安全に安寧に暮らすのとどちらがましか考えろ」
「仕事にそんなの考える必要もないだろ!」

テーブルの上に読んでいた本を置いて、バージルは立ち上がった。
眉間の皺がいつもよりも深くなっている。

「ここまで愚かだとは思わなかった。自分から死にに行く馬鹿がどこにいる?」
「勝手に死ぬだなんて決めつけるな!仕事は仕事だ。どんな仕事だって危険との隣り合わせだろ!」
「このワーカーホリックが!貴様は何の目的があって働くのだ!死ぬために働くなぞ馬鹿げている!」
「大体私が何をしようがバージルには関係ないだろ!なんで一々口を出すんだ!?」
「貴様……っ!」


「ストーップ。二人とも、そこまでだ」


今まで静観していたダンテが二人の間に割って入る。
牽制された鈴はバージルを睨み付けると、そのまま踵を返して二階へと上がっていった。
扉を閉める音が荒っぽく響く。

「はぁ。あのなオニイチャン、言い方ってものがあるだろ?あれじゃ逆効果だ」
「俺は間違ったことは」
「バージルのやり方は強引すぎるんだよ。鈴は仕事にプライドを持っている。それを奪うんだから怒るのは当然だろ?」
「…………」
「機嫌直しに行ってくるから、降りてきたらちゃんと謝れよ?電話番頼む」
「……ああ」
「行くぞスコル」

声を掛けられてスコルは立ち上がり、階段を昇るダンテの後ろを着いていく。

「鈴、入るぞ」

ノックと共にダンテが鈴の部屋へと入る。
鈴はベッドで布団にくるまり、こちらに背を向けてふて寝していた。

「ご機嫌斜めか?お姫様」
「……ダンテも仕事辞めろって言うのか」
「ワーカーホリックから仕事を取り上げたらどうなるか分かるだろ?」

ダンテがベッドに腰掛けて茶化すように言うが、主は答えず布団を引き寄せた。
先ほどより機嫌が良くなったようだ。

「あいつきつい言い方しか出来ねぇが、鈴のことを心配してるんだよ。それが分からないお前じゃないだろ?」
「……分かっている、けどさ」
「お前ら二人とも、頑固だからな。ホント兄妹みてぇ」

くつくつとダンテが笑う。
鈴から剣呑さがなくなった。

「……ダンテも知ってたの?」
「何が?」
「バージルが私の仕事引き受けてたの」
「止めたさ。絶対怒るぞって。そうしたらあいつ、何て言ったと思う?」

鈴が背を向けるのをやめてこちらに体を向けた。

「それでも構わないってさ」

ダンテが微笑み、鈴の頭に手を伸ばして撫でる。

「俺だって本当のことを言うなら、鈴には仕事を辞めてもらいたいさ」
「……うん」
「でもお前が頑張っている姿を見ているから、そんなこと言えない」
「……うん」
「俺もバージルも、お前のことを心配してる。それだけは忘れないでいてくれ」
「わかった」
「いい子だ」

くしゃりとダンテが頭を撫で、ベッドから立ち上がった。

「さ、ふて寝はもうおしまいだ。仲直りしに行くぞ」

そう言って手を差し出したが、鈴は躊躇いを見せる。

「大丈夫だ。もう怒ってない」
「……本当に?」
「ああ」

根拠もない言葉だったが、それで充分だったらしい。
差し出された手に自身の小さなそれを乗せて、鈴はベッドから出る。
ダンテに手を引かれて階下に降りると、デスクにバージルが凭れていた。
こちらを見て口を開こうとするが、躊躇ってすぐに閉ざしてしまった。

「ごめん」

先に謝ったのは、鈴の方だった。
ダンテの手を離れてバージルの側へ行き、頭を下げる。

「心配してくれてありがとう。仕事、辞めることは出来ないけど、無理はしないように検討してみる」
「……ああ。俺も、少し言い過ぎた」

ふるりと首を横に振った鈴の頭に、バージルは自分の手を乗せる。

「喉が渇いた。お前の入れた紅茶が飲みたい」
「わ、分かった!」

こくりと頷いて鈴がキッチンへと駆けていく。

「先に謝られてやんの。かっこわり」
「黙れ。串刺しにされたいのか」
「やれやれ。俺にも鈴に見せるくらいの優しさが欲しいぜ」
「愚弟が」

スコルがバージルに目を向けると、その眉間の皺が随分薄くなっていることに気づいたのだった。


たまの喧嘩
(ダージリンをミルクティーにするお前は馬鹿か!)
(飲めればいいんだよ飲めれば!)
(喧嘩は余所でやってくれ)


**********


鈴 ち ゃ ん マ ジ 天 使
鬼いちゃんのツンデレ加減がもう半端ない破壊力ブフォアアアアア
出来る子ダンテちゃん!万歳!!
誕生日にこんないいもん貰っちゃったよ昇天できるわ私…
なまりさんありがとうございまするるるる///
なんか私なまりさんに小説もらいまくりんぐな気ガススミマセン



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