お手伝い

休日明けの教室の朝は騒がしい。
週末放送されたTV番組のこととか、宿題のこととか。学生の休日って本当たくさんの事があって、それを早く友人に話したくなるんだ。週初め月曜日って、学校嫌だなーと思うことも多いけれど、やっぱり少し楽しい。

「だから一杯お話しようね、じろくん!」
「現実逃避してる暇があるならさっさと応接室行ってこい。」

そもそも休みだろうが何だろうが俺らほぼ毎日会ってるだろ、と冷たく返される。
それはそうなんだけど、それっぽく言ったら流されてくれるかなーなんて思いましてね。

…………俺だって行かなきゃいけないことくらい分かってるんだよ。でもやっぱり面倒臭くて。勉強なんて基本的に嫌いな俺が「授業受けてた方がマシ」て思うくらいだから、風紀の手伝いがどれだけ面倒だか察してくれないだろうか。
何とかならないかとじろくんに相談したら、「約束したんなら行け。」と逆に怒られた。
約束って言っても、早く帰りたいがためについ言っちゃったことなんだよ。わかって。

「まあ行きたくねえのは分かったが、お前がうだうだしてる間に雲雀のほうが教室にきちまったぞ。」
「え゙……。」
「君いい加減にしなよ。なんで毎回僕が呼びに来なきゃならないのさ。」
「あはは………」

本当に来てる。
道理で急に静まり返っているわけだ。
毎回ってまだ2回なんだけど……まあ、いい。
ていうかやっぱ朝から手伝わなきゃいけないんだね。

「……めんどくさい……。」
「何か言った?」

思わず呟いた言葉を委員長さんに聞きとられ、ギロ、と睨まれる。
じろくんに助けを求めようにも、じろくんは完全傍観態勢だ。
教室をグルリと見回しても、委員長さんが来たことでほとんどの人は逃げちゃってるし、逃げ遅れた人も席に着いて、こっちと目が合わないように机とにらめっこをしている。

……………ああ、もう。


「わかったよ。……行けばいいんでしょ、行けば。」

もういいよ……どうせ誰も助けてくれないもん!!







「はあぁぁぁぁ………。」
「さっきから欝陶しいんだけど。何なの?」
「何なの?じゃないよ!!何で俺が朝から放課後までぶっ通しで手伝わなきゃいけないのさ!」

今何時だと思う?なんと17時過ぎです!!

そもそも俺は生徒会に回された仕事はきっちりとこなしてるんだ。風紀のせいで誰も生徒会に来ないから、じろくんと俺の、たった二人で……!
それなのに何で俺がお昼もろくにとらず、こんな時間まで風紀の仕事をやらなきゃいけなかったんだ。まだ帰ろうという気配がないのも頂けない。
普通もっと気を使って早く切り上げたりしない?

………委員長さんだもんね。気なんか使う訳ないよね。

「ねー……委員長さん…。」
「何?君いちいちうるさいよ。」
「うるさいって言うなら俺に手伝わせないでよ!…じゃなくて!まだ明日提出のやつ終わらないの?
いい加減帰りたいんだけど。」

だってさ、朝から今…夕方までほぼ休みなしでやってんだよ?もう終わるでしょ。おわってなかっあつか終わってなくても俺は帰らせろ!

「……まあいいか。明日までの分はとっくに終わってるしね。」
「は?何勝手に余計に手伝わせてんの?」
「大分進んだから、貸し1つはチャラにしてあげるよ。」
「ああそう……て、は!?」
「何か文句ある?」
「文句しかない!!昨日と今日手伝ったのに何で1つなのさ!?」
「今日もやらなきゃいけなくなったのは君が昨日ちゃんと朝から来なかったせいだ。もう1つの貸しは、また今度何かやってもらうからね。」
「何言って…!…………、あーもういいや。反論すんの疲れた。とりあえず帰ろうよ。早く外の空気が欲しい…。」

どうせ言っても無駄だ。
そんな無駄なことするよりは早く外出たい。
今日ほとんど委員長さんと2人だったからもううんざりだよ。時々草壁さんが報告に来たりしたけど。

「じゃ、俺はじろくん迎えに行って帰るね。」
「天名はまだ残ってるわけ?」
「俺待っててねって言ったもん。」

じろくんは微妙な反応してたけど。
でも基本的にじろくんは俺に甘いから、何もなければ待っていてくれてるはずなんだ。

―――の、はずだったのだけど。

「じろくんの裏切り者ーーー!!!」
「うるさいよメイノ。」

教室は普通にもぬけの殻だった。
いや、正確には何人か居残っていたけれど、何故だか着いてきた委員長さんを目にしたら皆何処かに逃げてしまった。ふと思い出して携帯の電源を入れると、数分前に受信した「悪い先帰る」の文字。
希望を打ち砕かれてガクリと肩を落とす。
お仕事頑張ったのにこの仕打ち………あんまりだ。

「もういないって分かったんだからさっさと帰るよ。」
「………勝手に帰ればいいじゃん。そもそも同じ方向なの?」
「僕が帰るって言ったら帰るんだよ。」
「…………。」
「何その顔。不細工。」
「あんた本当にムカつくんだけど!!」

そもそもじろくんがかえっちゃったのも、委員長さんがさっさと切り上げなかったせいなのに……!労いの言葉の1つや2つ、あって然るべきだろ!言われても気持ち悪いからいらないけど。
怒りに任せてズンズン歩くが、委員長さんも着いてくる。

「つーか委員長さんの家ってこっちなの?」
「何で?」

だってもう俺のアパートに着いたから。
イタリアから出てきたので当然ながら俺は一人暮らしをしている訳だけど、絶対じろくんと隣同士の部屋が良くて探したんだ。その他の条件は二の次だったので結構古くて狭い。本当はもう少し綺麗な所にしようかとしていたんだけど、じろくんと相談して、家賃とかも考えて決めた。

築40年の木造2階建てのアパートが、俺の日本での仮家である。

キャバッローネの家とは全く違うけど、中々悪くないと思う。

「へえ、ここが君の部屋?」
「うん、そうだけど。いつまでついて来るの。」

俺が鍵を開ける時になっても、委員長さんはまだ俺の横にいる。

「あがらせてもらうよ。」
「うん……、はあ!?ええ!?」

何なんだろうと思いつつ鍵を開けると、委員長さんは主の俺よりも先に部屋に入っていった。

……………どういうことだよ!?

「ちょっと!何勝手に入ってんの!?」
「あがるよって言ったじゃない。」

そうじゃなくて!!
って言おうにも、委員長さんはズンズン中に入っていって、部屋中を見てまわっている。
何がしたいんだよ!
そして図々し過ぎだろ!

「……君よくこんな狭い所で生きていけるね。」
「悪かったね!!」

もう本当…何なのこの人!?人の家勝手に見て“狭い”って!本当のことだけど!

「君そんなに金ないわけ?」
「…俺?俺はあるよ。お金ないのはじろくん。俺はじろくんと一緒のトコがよかったからここに住んでるだけ。」

日本に来たのは俺のわがままだから、じろくんの生活費は俺が出すつもりだったのに、“お前に養われるのはごめんだ。”って断られた。
せっかく兄さんの口座からお金たくさん下ろしてきたのにな。

だからじろくんはバイトしてる。
それでもどうにもなりそうにない時は俺が勝手に払ってる。こっそりと。まあばれてるだろうけど。

「…………そうか、今日じろくんバイトだった。」
「…………は?」

そうかそうか、だから先に帰っちゃったんだ。忘れてた。バイトは夜からだけど早く帰って仮眠とりたいって言ってたな、そう言えば。
うんうん、俺は信じてたよ。じろくんは何も無しに俺を置いていかないって。

「ちょっと。」

一人で頷いていると、わしっと頭を掴まれて無理矢理首を回される。

「痛い痛い何何!?」

首つる!!!

「何じゃない。校則を知らないのか、バイトは禁止だよ。」
「げ……。」

やばい、忘れてた。そしてめんどくさい人にばれてしまった。じろくんの事だからおそらく教員には許可とってると思うんだけど、この人には言ってなかったんだ。
思わず顔をひきつらせる。頭を鷲づかんだ手の力が強くなるのを感じた。……地味に痛い。
誤魔化すようにへらりと笑うと、顔をしかめた委員長さんがやっと手を離す。

「天名は今隣にいるのか?」
「え、まだいると思うけど……え!?何するつもり!?」

急に玄関に向かった委員長さんの腕を引っ張る。

「注意喚起に決まってるだろ。一生徒でも許せないのに、仮にも並中副生徒会長が校則違反なんて見逃せる訳がない。」
「え、いや、ちょっと待ってお願い!じろくん多分今寝てるから!」
「関係ない。」
「いやいやいや、あの、俺が悪かったから!謝るから今は見逃して!!」

―――俺がここまで慌てて止めるのにはそれなりの理由がある。

何を隠そう、じろくんは寝起きが最悪なのである。……寝起きのじろくんは超怖い。特に今、委員長さんはじろくんに説教をかまそうとしている。そしてその原因を作ったのは俺。

―――殺される!!

冷や汗をかきながら止めようとするが、委員長さんに力で敵うはずもなく、ズルズル引き摺られてしまう。

「ちょっと待ってお願いって!何でもするから今は本当にっ……」

そう言った直後、玄関のドアがバァン!と音をたてて開いた。

「メイ…テメェいい度胸だな………。」
「ひっ………じろくん………。」

起きちゃった……!!じろくんただでさえ寝起き悪いのに!とりあえず何かに隠れたかったので委員長さんを盾にする。
委員長さんの姿を確認したじろくんは、一瞬驚いた顔をしたと思うと、すぐに眉をひそめた。

「雲雀か……お前も五月蝿くするなら来るんじゃねーよ。」
「……僕に指図するな。それにバイトだって……?そんなもの許可した覚えはないよ。」
「教師に許可ならとってる。お前に言う必要あるか?大体何でお前が知って……」

ごめんなさい。委員長さんを前に出した俺が悪かったです。
謝るから!謝るからもう余計なこと言わないでよ委員長さんのバカ!!

「……おいメイ……お前か……。」
「ごめんなさい口が滑りました!!!」

じろくんの顔が般若に近くなる。

「…………………何とかしろ。」
「はい!!委員長さん!早く行くよ!」
「ちょっと。まだ話があるんだけど。」
「いーいーかーらーはーやーくー!!」

委員長さんを引っ張ってとりあえず走り出す。
とりあえず委員長さんをこの場から立ち去らせなければならない。じろくん普段は優しいけど、寝起きはすごく怖いんだから!


全力疾走すること数分。
俺は満身創痍なのに対して委員長さんがケロっとしてるのは何なんだろうね。ちょっとムカついちゃうよね。

「ハア…………、委員長さん!本当余計なこと言わないでよ!」
「余計なこと?僕の学校の生徒が校則を破ったのを見過ごせってこと?」
「委員長さんだってバイク乗ってんじゃん!」

「僕はいいんだよ。」
「じゃあじろくんもいいんだよ!」

てか委員長さんはバイク無くても死なないけど、じろくんは生活できなくなるんだからね!
まあいざとなればお金くらい俺が出すけどさ……。

「……何なの。君また僕に借りを作りたいわけ。」
「どうしてそうなるんだよ!?」
「………まあ、そんなに言うなら彼がバイトするのを容認してあげてもいいよ?ただし、さっきの“何でもするから”の言葉は忘れないようにね。」
「え!?俺そんなこと言ってな……」
「言った。」

……言ったかもしれないけど、それはじろくんに怒られたくなかったからであって。結局失敗したのだからそんな口約束無効じゃないかな!?
それを主張すると鼻で笑われた。

その態度にあんまりムカついたから、無駄だとわかりつつ足を踏ん付けようとしたけど、やっぱりひょいと避けられた。

………………むなしい…。

委員長さんは納得したのか、じゃあ決まりだね、と言って歩き出した。

いつ決まったの……って言っても無意味なんだろうね…。
なんか最近物事が委員長さんの良いように持っていかれてる気がする。


まあ抵抗しても意味ないしね……。

はああ、と深いため息をつき、俺も家に向かう。


とりあえず、どうにか逃げる方法を考えよう。


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