死体

4.死体

今日はリボ先生にまた沢田の家に招待されました。
じろくんも一緒に行こうと誘ったんだけど、今回は意地でもついて来てくれなかった。まあ、先生から声が掛かるって事は必ず何かが起こるから、それは正しい判断だろう。
俺は楽しそうだから来ましたけどね。

「お!会長じゃねーか!」
「…な!!テメェ何でここにいやがる!?」

沢田家の前に着くと、そこには既に獄寺と山本がいた。仲良しだなあ。

「山本、オハヨー。獄寺は相変わらずだねー。」
「っっテメェ馬鹿にしてんのか!?ぶっ殺す!!」
「まーまー落ち着けって獄寺!会長はどうしてツナん家来たんだ?」
「リボ先生に呼ばれたんだよ。じろくんも誘ったけど、断られちゃった。」
「はんっざまあみやがれ!」
「おおっと足が滑ったー」

ちょっとイラってなったから蹴飛ばしときました。

後ろで獄寺がふざけんじゃねー!とかいったり、山本がそれを押さえ付けてるのを見ながら、おじゃましまーす、と先に中に入った。
チャイムは鳴らしたしいいよね。それに沢田の部屋、かなり騒々しいから出迎えれる状況ではないのかもしれないし。
すると獄寺が先に入ってんじゃねぇ!と慌てて入って来る。

「いいか!?十代目のお部屋には右腕であるこの俺が最初に入るんだからな!?」
「…どーでもいいよそんなのー。」

獄寺の謎理論により彼が先頭に立ち、沢田の部屋へ入る。何やら叫び声が聞こえるなとは思っていたけど……そこでは沢田と女の子が泣きながら騒いでいた。

「もう俺の人生は終わったんだー!!自首するしかないーー!!」
「ツナさんが捕まってもハル待ってますー!手紙書きます!!」

「…は……」
「…え?」
「………何じゃこりゃ。」

何これ、お芝居の練習……?
3人でポカンと立ち尽くしてしまう。
部屋の隅には血を流して倒れている人がいた。沢田は寝惚けて人を殺してしまったとさめざめ泣いている。

「沢田が殺し…?」

そんな事できたんだ、沢田。俺は先生のいたずらだと思ってたよ……。
だけどお芝居やイタズラにしては死体(?)の様子がリアルだ。少しだけ死体(?)に近づいて観察するが、……うん、生きているようには見えない。
ふむふむと状況を確認していると、沢田が足下にすがってきている。藁にもすがる、て奴だね。

「うぅ……メイノさん…俺どうすれば…」
「うーん………。
…………
……………………
………………………………
……………………沢田…今までありがとう。楽しかったよ。」
「んなあ!?ちょっ…待ってくださいよ!見捨てないでくださいーー!!」

「…………………冗談だよ。」
「じゃあその間は何なんですか!?」


いやー、沢田ってテンション上がると饒舌になるよね。普段は俺にこんなに叫ばないよ。
それか、今日はじろくんがいないから言いやすいのかな。

「はひ!そういえばツナさん!この人はどなたですか?」
「あぁ、はじめましてだね。そういや……なんかとても自己紹介する雰囲気じゃないけど、よろしく。俺はメイノ・キャバッローネでーす。」
「はひー!外人さんですか!?ハルは三浦ハルっていいます!未来のツナさんの妻ですよー!」
「こんな時に何言ってんだよ!」

ほんと、殺人現場の雰囲気じゃないね。
ていうか、その人って本当に死んでんのかね……だってリボ先生すごく楽しそうだし。やっぱ先生のいたずらなんじゃないか……?

「つーか、こいつって本当に死んでんスか?」
「あ、俺も今それ思ってた。」

獄寺、以心伝心だ。少し感動して言うと、獄寺が少し不機嫌そうに「俺が最初に気づいた」と主張する。
……どっちでもよくない?変な事にこだわるなあ。

「おじさん起きてーー。」
「あなた何やってんですか!?!?」
「え、いや起きるかなって。」
「起きるわけないだろ死んでんだぞ!?」

死体(?)をゆすると沢田にめっちゃ怒鳴られた。沢田のためにやってるのに酷くない……?

「十代目の言う通りだ、下がってろ。
……大体温いんだよやり方が。
テメー起きねぇと焼き入れんぞコラ。」

俺をどけた獄寺が、死体(?)の顔にタバコを近づける。
――何やってんの!?
俺がそう思ったように、沢田も悲鳴を上げている。………が、なんと。

「う…動いた…?」

死体(?)が、ピクリと確かに動いた。

「ギャーーー!!……生きてる!?は、早く救急車ー!!」
「救急車です!早くよびましょう!!」
「安心しろ。医者なら呼んどいたぞ。」
「おお、さすが先生!」

感心して先生が指す方を見れば、酔っ払いのおじさんがいた。
……………医者……?
あ、でも沢田が早く診てください!と急かしてるトコを見ると、一応医者なんだ。

「おぉそうだった。死にかけの奴がいるんだったな……どれどれ…。」
「キャーーーー!!!何するんですかー!!」

おお…いいパンチだ。
…じゃなくて、あのおじさん、やっていいことと悪いことあるの理解したほうがいいよね。
血まみれで倒れている人を無視して、どう考えてもピンピンしている三浦ハルちゃんの胸に両手を当てた。
――うん、いつか捕まるよ。
そんなおじさんに、沢田が誰診てんだよ!とツッコんで、死体……ではないんだったっけ?まあその人を診断するように促した。

「は…?いや、だから俺男は診ねーって。」
「じゃあ何しに来たのさ、おじさん。」

思わず俺がツッコんじゃったよ。ツッコミ役は沢田なのに。

「おじさん言うな。お兄さんと呼べ………って!メイノじゃねーか!でっかくなったなーお前。」
「……ん?会長ってこいつと知り合いなのか?」
「知らないよこんな人……。何?新手のナンパですか?」

俺がそう言うと、おじさんは心底驚いた、という顔をした。

「お前!小さい頃あんなに世話してやったのに忘れたのか!?」
「あ゙ー…俺過去は振り返らない男だから。」
「要は忘れたんだろ。まあ、シャマルがメイノに最後に会ったのはかなり小さい頃だから、仕方ねぇと思うぞ。」
「そりゃ仕方ない。まあ、俺にとっておじさんはそこまで印象的じゃなかったってことだね。」
「……ヒデー…。」
「とりあえずさ、その人。どうすんの?」
「んなこと言っても俺は男なんざ診ねーぞ。大体そいつ生きてんのか?瞳孔開いて、呼吸止まって、心臓動いてなけりゃ死んでるぞ。」

そう聞いて、試してみると……………うん。パーフェクト!!全部に当て嵌まるね。

「俺がふざけてる間に仏さんになっちまったのかもな。仏さんには用ねぇや。」

そうして帰ったおじさんだけど……あの人本当に何しにきたんだろうね。何も進展起きなかったよ。……いや、一応死体が本当に死んでる事がわかったか。

「んで、先生どうすんの?この状況…。」

窓際で壁によっ掛かりながら部屋を見渡す。
獄寺がいっそ死体吹っ飛ばしますか?とか物騒なこと言い出して、沢田と山本が必死で止めている。
沢田なんて半泣きだよ。可哀想に。

「安心しろ。こういう時のためにもう1人呼んどいたぞ。」
「……?」

もう1人………?
と部屋にいる5人が疑問符を浮かべた瞬間、ダン、と音がしたと思うと、窓から委員長さんが現れた。

ヒバリ(さん)ーーー!?と獄寺、沢田、山本の3人が叫ぶ。
ちなみに俺はしゃがみ込み、できるだけ気配を消そうとしている。

まずいんだよ本当、今委員長さんに見つかるのは。

委員長さんを呼んだ先生を恨めしげに見ると、なんかニヤニヤしている先生と目が合う。

あ…わざとか…。


「今日は君たちと遊ぶために来たんじゃない……赤ん坊に貸しをつくりに来たんだ。ま、取引だね。」
「待っていたぞ。ヒバリ。」

先生がニヤニヤ顔のまま言う。…こんちくしょう……とは言えないけど。
でもまあ、委員長さんが部屋に入って来なければ、このままやり過ごせるか、と少し安心………したが、その期待はすぐに裏切られた。

「ふーん……やるじゃないか。心臓を一発だ。
……うん。この死体は僕が処理してもいいよ。」

委員長さんの言葉にツッコミたいことはたくさんある。
……だけど、俺が今1番言いたいのは………

入ってくんなよ!!しかも土足で!!


沢田たちが騒いでる間、さらに体を縮こまらせながらそろりと扉に向かう。駄目元だが、気づかれないうちに逃げるが勝ちだ。

「じゃあ後で風紀委員を寄越すよ。……ところで君はさっきから何やってるの?メイノ。」

………、ダメでした。


「そもそも何でこんな所にいるんだい。今日は応接室に来いって言ったはずだよ。」
「いや、俺はリボ先生に呼ばれて……。」
「俺のせいにすんじゃねーぞ。俺は来れたら来いって言っただろ。」
「う…………。」
「言い訳はそれだけかい?」

だから見つかりたくなかったのに!
俺が委員長さんから隠れてたのは、委員長さんが体育祭の時の借りを返せって言ったから。
休日返上で書類整理を手伝わせる気だったらしい。
そりゃ俺だって一応生徒会長な訳だから、ちょっとくらいは手伝うつもりだよ?でも昨日、やらなきゃいけない書類の量見て、こりゃダメだ、て思ったんだ。

絶っっ対!今日だけじゃ終わらないから!!

それならなおさら手伝うべきなのかもしれないけど、委員長さん相手だからね。今日中に終わらなかったら明日明後日も呼び出すんだ。んでいつか手伝うのが習慣、みたいになるんだ。
だから行きたくないんだよ!

大体にして、体育祭の件も俺は悪くないはずだ。
体育祭ぶち壊したのは沢田たちだし。
それを計画したのはリボ先生でしょ?

「………、そうだよ!俺なんも悪くないじゃん!!」
「……………は?何急に。」
「体育祭のことで俺は委員長さんに貸しなんてないってことー!体育祭ぶち壊したのは沢田たちなんだから、書類なら沢田たちにやらせてよ。」

先生はいくら言ったって責任とる訳ないから、一番流されそうな沢田に狙いをつける。

「テメー何言ってやがんだっ!!」
「獄寺うっさい!っていうか沢田と山本はギリギリ無罪でもいいけど、獄寺と笹川は有罪だから!俺がこんな目にあってんのはお前のせいだバカ!!」

むしろ獄寺だけでいいや!獄寺って頭いいんでしょ?じゃあ書類整理なんて簡単じゃん。
そう思い、獄寺に押し付けようとすると、いつの間にか俺の足元に来ていた先生が言った。

「メイノ、お前そろそろ覚悟きめて行ってこい。」

そのまま足を払われ………

「っっ先生のアホーー!!ここ2階!!普通に死ぬーーー!」

落とされた。

先生のバカバカバカ!!!死体増やしてどうすんだ!!

俺の絶叫もむなしく、体は重力に従っていく。







―――あ、死んだな。

「……君馬鹿じゃない?」
「え…………あれ……?」

本気で死を覚悟した俺だけど、意外や意外。なんと委員長さんに助けられました。
委員長さんの“馬鹿”発言に、落ちたのは俺のせいじゃない、と言いたいところだが、2階から落ちかけたことでの精神的打撃がひど過ぎて言い返せない。

ほんと、死ぬかと思いました。

先生がまさかあんなことをするとは………。
じろくんがいる時ならまだしも、いない時にやられたらシャレになんないよ。

沢田の部屋を見上げると、何やら騒がしい。部屋黒焦げだし。
まあどうせ獄寺がまた暴走したんだろう。
でも今はそんなことどうでもいいや。

…………それより。


「委員長さん。これ何。」
「見て分からない?」

いや、分かるよ。バイクだよね?そうじゃなくてさあ。

「……なんで俺までこれに乗ってるの。」
「学校に行くからでしょ。」
「………ちなみに誰が運転するの?」
「僕だけど?」

その言葉の後、グン、と体が引っ張られる感覚がして。

「〜〜っっ免許は!?ヘルメットは!?つかこんな道路でんなスピード出さないでよ!落ちるからーっっ!!」

本日2度目の絶体絶命!

後で委員長さんにお礼言おうかと思ってたけど……………誰が言うもんかバカーーー!!



「や…やっと着いた……。」
「さっさとおりなよ。」

委員長さんがやたらとスピードを出したから、時間的には短かったはずだが、すごく長かった。
死ぬかと思った。何度も言うけど、死ぬかと思った。
これから書類整理!?
俺もう疲れた。もうやだ。帰りたい。

…まあそんなこと思っても無駄だけど。
そうこう考えてるうちに、委員長さんに引っ張られながら、応接室に着いてしまった。

「……これ今日中に終わる…?」
「さあ。君が午前中全部無駄にしたからどうだろうね。もし終わらなかったら明日からもやってもらうよ。」

やっぱり。
てかこれって丸1日かけても終わるか微妙じゃない?それなのに終わらないの俺のせいなの…?
………理不尽。

ムゥ、と不機嫌を隠さずにいると、委員長さんに書類の束を投げ付けられた。

「いったーーー!!」
「うるさい。早く取り掛かりな。」

書類は留め金でまとめてあったから散らばりはしなかったけど、地味に痛いよ…。
はあ、とため息を1つ。
それでもちゃんとやり始める俺、超偉い。









「あ゙ーー!!おーわーらーなーいー!!!」

「うるさい。口じゃなく手を動かせ。」

さっきからやってるよ!
でも終わらないんじゃん!!何時間やってると思ってるんだ!!
もう外も暗くなり始めてるし……。時計を見ると6時30分。後30分で学校から出なきゃいけない。

「ねー委員長さん、これって今日中にやらなきゃダメ…?」
「……締め切りは明後日だけどね…あまり延ばしたくないから。」
「…じゃあさ、明日も手伝うから今日はもう帰ろうよ。俺疲れた。………委員長さんも大分疲れたでしょ?」

委員長さんは顔をあげ、ふぅと息をついて立ち上がった。
帰るよ、と一言だけ言い、足早に出ていく委員長さんを慌てて追い掛ける。

帰りたさ余って、思わず明日も手伝うとか言ってしまった。……まあ、面倒だけど明日くらいならいいか。今日助けてもらった借りもあるし。

「……委員長さん。」
「何。」
「………今日のこと、一応お礼は言っとくよ。」
「何が。」
「…………今日、2階から落ちたときのさー。」

お礼なんか言わない、と思ってたけど、一応ね。一応。ほんとは言いたくなかったけど、一応。
てか委員長さん忘れてたのか、そうなのか、おい。じゃあ言わなきゃ良かった。
せっかく俺がお礼言ったのに、委員長さんは「ああ。」と気のない返事をした。

「別にお礼なんて言わなくてもいいよ。今日は君にまた1つ貸しをつくれた訳だからね。」
「…は。」
「体育祭の分は今日と明日ので返してもらうけど、今日の分はまた今度ね。」
「………はあ?」
「つまり、また今度何かしらやってもらうから、礼なんかいらないってこと。」
「………………はあああ!?ちょっと待って計算おかしくない!?百歩譲って借り2個で、今日手伝って1個消費して、明日でおしまいでしょ!?」
「うるさい、僕の言うことは絶対だよ。」

ふ ざ け ん な ! !
やっぱお礼なんか言わなきゃよかった!

呆然とする俺に、委員長さんがクスクス笑いながら、バイクを指差して、送ってあげようか、と言ってきた。
その時の顔がまたムカついてならなかったから、とりあえず手近に落ちていた石ころを投げてやった。

……まあ、普通に避けられたけどね。

[ 4/13 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -