ご対面

爽やかな朝日。早起きは三文の得。
だけど全然嬉しくない。



今日は俺にしては早起きだ。まあ、遅刻をざらにする俺にしては、だから一般の中学生は登校中だ。
珍しく遅刻の心配もない。それなのに俺の足はなかなか進まず、すでに10人以上に追い抜かれた。
別に学校が憂鬱なのではない。いや、確かに学校は好きではないけど、獄寺くんや山本という友達ができてから嫌いではなくなった。ただし、今回俺を憂鬱にしているのはその2人が関連するわけで。

「うあー!もう……どうしよう!」

リボーンは「あの二人を生徒会室に連れていくくらい簡単だろ。」と言っていたけど、そんなことはない。山本はともかくとして、獄寺くんは下手したらダイナマイトをぶん投げるだろう。そしたら、天名さんが怖い。

何せ昨日帰る間際、「これ以上面倒事起こすなよ」と釘を刺されたばかりなのだ。あの時超睨まれた。
メイノさんは会話に体力を使いそうけど、怖くはないんだ。多分獄寺くんの奇行も笑い飛ばすだけで済ませてくれるだろう。
だけど……獄寺くんがいて、天名さんみたいな人がいれば………確実に応接室の事件が再来する!!それだけは絶っっ対避けたいんだ。
まあリボーンはそれを望むんだろうけどな!

「よっツナ!何うなってんだ?」
「ぎゃああっ!?」

気づけば俺は大分考え込んでいたようで、学校へ向かっていたはずの足は止まっていた。周囲の音が聞こえなくなるほどにって、どんだけ集中してたんだ。

「悪ぃ、驚かしたか?」
「いや大丈夫。こっちこそごめん。」
「でもどうしたんだ?すっげー考え込んでたんだな。」
「あー……実は……、」

獄寺くんと山本、2人に一気に話すよりかは片方ずつの方が話が伝わる。そう思い口を開いたところ、山本に遮られた。

「あ、やっべぇ。ツナ、走らねぇとそろそろ遅刻なのな。」
「え、嘘……ああーー!早く言ってよ山本!!」








嫌なことがあれば、時間は光のように過ぎるものだ。いつもは時間の流れが遅く感じる大嫌いな体育も今日は矢のように過ぎ去った。

朝は山本に引っ張ってもらってなんとか間に合って、獄寺くんには「俺がお迎えにあがらなかったばかりに!」と土下座された。
それからどうにかしてリボーンに言われたことを説明しなきゃと思いながらもタイミングが掴めず、今に至る。


……そう、もう放課後なんだ!

しかも今日はちょうど野球部が休みらしく……どうせリボーンはわかっていたんだろうけどさ。連れていかなかったとして、俺はリボーンに何も言い逃れできないって訳だ。

「さあ十代目、帰りましょう!」
「せっかくだからどっか寄り道してこーぜ。」
「引っ込んでろ野球馬鹿!この俺が、十代目と、帰るんだ!」

いつもながらのやり取りが今はつらい。ああ……憂鬱だ。
はああ、と深いため息をつくと二人が不思議そうに覗き込んでくる。

「そういやツナ、朝から何か悩んでたな。何なんだ?」
「うーん……あー……あのさ、リボーンに言われて行かなきゃいけない所があるんだけど…。」

とりあえず教室で獄寺くんがマフィアとかなんとか叫べば嫌だから、向かいながら話すことにした。



―――と、言っても何と説明すればいいのかわからず、「リボーンに言われたんだ。」としか言っていない。本当、自分のない頭もっとがんばれ。

「ここ、なんだけどね。」

案の定、二人はキョトンとしている。ていうか、よく考えたら俺もなんで二人を連れて来なきゃならないのかのちゃんとした理由は聞いていない。「リボーンが楽しいから」としか。
とりあえずドアに手をかけるが、鍵が掛かっているようで開かない。……そりゃそうか。
これからどうすればいいんだろう。メイノさんか天名さんかが来るまで待っていればいいのかな…?
うーんと唸りながら二人を見ると、獄寺くんがものすごく目をキラキラさせていた。

「なるほど!応接室で失敗したアジトを生徒会室にするんですね!」

なんでそうなるんだよ!?獄寺くんには下手に説明すれば誤解されるから、と思っていたのに……何も言ってなくても勘違いしてるし!!

「ち、違うよ!!」
「いえ、お任せ下さい十代目。必ずや成功させてみせますとも!」

出たゴーイングマイウェイ!!

「手始めにこの扉ぶち壊しましょうか!」
「またマフィアごっこな!」

「頼むからやめてくれー!!」

きちんとした理由を考えつかなかった俺の頭も頭だけど……これはねーよ!
半泣きでなんとか止めようとしていると、昨日ぶりの声が聞こえた。


「またまた随分濃い奴らだねぇ、さすが沢田。」

「………、メイノさん!!」

ぴたりと獄寺くんの動きが止まる。
ニヤニヤしながら言われた言葉は心外だが、獄寺くんが止まっただけで俺は十分だ!

「まあ、せっかく来たんだしとりあえず入りなよ。」

ニコニコと笑いながらメイノさんが鍵を開ける。
とりあえず今は獄寺くんも大人しいし、怖い天名さんもいないし、良かったぁ……。ちらりと獄寺くんを見れば親指を立てながらウインクされたけど。なんの合図だそれは。

『し ん にゅ う せ い こ う 』

口パクで伝えられた言葉。……生徒会室の前でダイナマイト持っている所を見られてんだから、成功も何もないんじゃないかな。とはさすがに言わないけど。だって獄寺くんすごい得意げだから。

「……んで?問題児トリオは生徒会室を乗っ取りに来たんだっけ?」
「!?違います!」
「えー?だってさっきそこの銀髪くんが“アジトを生徒会室にするんですね!”って言ってたじゃん。」

じろくんに言い付けてやれ、とすこぶるご機嫌なメイノさん。何がそんなに楽しいんでしょうね、リボーンと同じで俺が困ってるのが楽しいんですかね!?
天名さんに知れたら応接室の二の舞になるに決まってる!その前になんとか二人を説得しないと……、

「チッ……ばれちゃしょうがねぇ。十代目!こうなれば実力行使です!!」
「お、なんか楽しそうだなー!」

っっ二人とも超ノリノリだーーー!!!
メイノさんはメイノさんでクスクス笑ってるし。……余裕ってことはやっぱ強いんだろうし!これは止めなきゃまずいよ!!

「二人ともちょっと待って!えーと……うー……あ!天名さんどうしたんですか!?」

我ながらなんてわざとらしい!!でも仕方ないだろ!?
メイノさんは俺の形相に一度ぶはっと吹き出してから、それでも一応答えてくれた。

「じろくん?じろくんはねぇ、おつかい中だよ。もうすぐ帰ってくるんじゃないかなあ。」

今戻ってこられたら確実に怒られるから困るんですけど……!頼む、なるべくゆっくり来てくれ……!
そんな俺の願いむなしく、ドアが開いた。

「あ、じろくんおかえ………うげ……。」

メイノさんの表情が苦々しいものになる。ただならぬ気配を感じて固まった自分の首をギギギと動かして振り向くと。

「人の顔見てそれ?礼儀がなっていないんじゃないかい、メイノ。」

現れたのは天名さんではなく、風紀委員長こと雲雀恭弥さん。

最っっ悪だ!!!


「はあ?意味わかんない。大体委員長さんに礼儀うんぬん語って欲しくないんですけど。入る前にノックくらいしなよ。」
「君は僕を誰だと思ってるんだい。ここは僕の学校だからね、それこそ言い掛かりだ。」
「うっざー……あんた頭おかしいんじゃない?」
「それ君だけには言われたくないな。……後僕の所に書類届けるのくらい自分でやりなよ。天名にやらせて自分はおしゃべりなんて良いご身分だね。」
「うるさいなあ。そういうあんただって草壁さんに押し付けてるくせに。ばーか。」

雲雀さんは入ってくるなり、メイノさんと言い争いを始めた。それだけで驚きだけど、雲雀さんがあれだけ言われてトンファーも取り出さずにいるのは驚きだ。俺らの時は問答無用だったのにさ。
獄寺くんと山本の方を見ると、やはり二人ともポカンとしている。……が、獄寺くんは俺を目が合うと、「お任せ下さい!」とでも言うように深く頷いた。
…………なんだかすっっごく嫌な予感……。

「おいテメーら!十代目を無視してゴチャゴチャ吐かしてんじゃねーぞ!」

っっ予感的中!!何言ってくれてんだ獄寺くん!?俺はもう雲雀さんと係わり合いになりたくないんだよ!
さっきまで俺なんか眼中に無かったはずの雲雀さんがちらりと俺の方を一瞥し、眉間にシワを寄せた。

「……何かと思ったら、この間応接室に不法侵入した揚句に破壊して逃走した三人組じゃない。」

っおーぼーえーてーたー!!
……というか………最終的に爆破したのはリボーンだし!その前に応接室に行くよう仕向けたのもリボーンなのに!!まあ、こんなこと怖くて言えないけど!

「ああ、そういや沢田たちって委員長さんトコに乗り込んだんだっけ?すごいことするねぇ。この人ネチネチしつこいよ?」
「うるさいよメイノ。君よりはマシだ。」

だから怖ぇってあんたら!メイノさんも俺に話振をないで下さいよ!
もちろん俺がメイノさんと雲雀さんとの言い争いに割って入れる訳もなく、何をしていたかというと、完全に固まっていた。もうやだ、逃げたい。
メイノさんと雲雀さんはまだ何か言い合ってるし。

その言い合いを止めたのは山本だった。

「はは、お前ら仲いいのな!てか雲雀って友達いたんだな。」

ピシリ。

音した、なんか、絶対、どっかから音した!
山本……さらりと爆弾落とすのはやめてくれ!!これのどこを見たら仲良しに見えるんだ!

「ごごごごごめんなさい!許して下さい!!」

なんで俺が謝るんだとかはこの際些細すぎる問題だ。

「べっつにー?怒らないよこんくらいじゃ。俺はどっかのだれかさんとは違いますから。………でも俺の名誉のために言わせてもらうけどさ、全くもって仲良くないから。生徒会長っていう役職上し・か・た・な・く風紀委員長さんと接触多いだけで!断じて!俺の意思じゃないから!」

言い終えるとふんと鼻を鳴らす。
……怒ってる……怒ってるよ絶対。雲雀さんもくわってしてるし。

「へえ、あんた生徒会長なのか。なんか意外だな。」
「や、山本!?」
「あーいいよもう。会長職が俺の柄じゃないことくらい自覚してるから。でもあんた正直者過ぎるでしょ。」

山本の方を見て呆れたように言う。それに対し山本が悪ぃ、と笑いながら言って、事は収束した。

………かに思えた。

「テメー野球馬鹿!何敵と馴れ合ってやがんだ!十代目、ここは俺が!!」
「ちょっ……違うってば!俺は別にアジトとかいらないし!メイノさんも敵じゃないし!」
「獄寺ー、学校で花火出すなって。」
「え……何それ。花火?爆弾じゃなくて?」
「君たち……また僕の学校を破壊する気?咬み殺すよ。」

またややこしいことに!獄寺くんと山本って色々お互いにない部分を補ってるよね!今回は悪い意味でね!!



「………おい。聞くのも嫌だが一応聞いてやる。何がどうしてこうなってるんだ。」


「じろくん!!」

パア、と効果音がつきそうなほど顔を輝かせて、ガバッ、と効果音がつきそうな勢いでメイノさんが天名さんに飛びついた。

「じろくんじろくん!じろくんおかえりー!!」
「うっぜぇ。」
「ひどい!でもさー……だって感動も一塩なんだよ。さっきじろくんが帰ってきたと思ったら実は委員長さんで!本気でがっかり!」
「ちょっとメイノ。せめて本人がいなくなってから言いなよ。非常識だよ。」
「だ・か・ら!委員長さんに常識とか礼儀とか語る資格ないからね!」
「お前らうっせぇ。少し黙れ。」

天名さんに怒られて、メイノさんがしぶしぶ口をつぐむ。
するとこの室内には必然的に沈黙が訪れる訳だ。だってまず俺ら3人と、ほぼ初対面の2人の先輩と、後は雲雀さんだ。このメンバーで和気あいあいと盛り上がるほうが怖い。

雲雀さんは部屋の中央にある一番立派なソファーに腰を掛け、俺らはただそこに突っ立っていて、メイノさんはというと天名さんに抱き着いて、天名さんはそれを引きはがすでもなくズルズル引きずりながら移動している。
天名さん、何その「いつものことだ」みたいな反応。ツッコミ所満載だ。
仲良しにもほどがあるっつーか仲良しの域を越えているというか。

「て……テメーら……ホモか!?」
「何言ってんの獄寺くん!?」
「だって絶対おかしいっすよこいつら!!」

ああ、俺も思ったさ……おかしいって!だけどそれを言葉にする奴がいるか!?

「なんでそうなる訳ー?あんたがそうだからそう思っちゃうんじゃない?」
「んだとコラァ!!」
「きゃーこわーい。」
「〜っぶっ殺す!」

完全にからかわれてるよ獄寺くん……。
メイノさんはニヤニヤしながら天名さんの影に隠れる。獄寺くん見た目不良なのに怖がらないって……確かにこの人なら「雲雀さんが怖いから生徒会嫌だ」とかは言わなそうだ。

メイノさんと獄寺くんが話してしばらくしたところで、ガツン!という痛そうな音が響いた。

「いっ……たあーー!!」
「君いい加減にしなよ。うるさい。……大体あの赤ん坊はどこなの。」
「はあ!?知らないし!あんたそんなことで人をポカスカ殴っていいと思ってんの!?つか誰だよ赤ん坊!?」

………リボーンです。絶対リボーンです。

ついに雲雀さんお得意のトンファーで頭を殴られ、涙目になりながらメイノさんが叫ぶ。
……でも、雲雀さんに殴られた時は獄寺くんも山本も気絶したし、俺は手加減されたけどすぐには起き上がれなかったのに………やっぱり見かけによらず強いんだな、メイノさんって。

「……おい、赤ん坊ってあのクソガキのことじゃねぇのか。」
「あー……先生か。何?委員長さんは先生に言われて来たわけ?」
「そうだぞ。」
「リボーン!!?」

いつのまにか輪の中に入っていたリボーン。……これ以上嵐の素が来たら俺はもう色々ときついぞ……!

俺の心中を知ってか知らずか……リボーンはとても楽しそうだ。

「先生……問題児トリオはともかく、委員長さん呼ばないでよ……。」
「雲雀もボンゴレファミリーだからな。お前に教えておこうと思っただけだぞ。……それよりお前はどうして雲雀にそう突っ掛かってんだ?」
「別にボンゴレとか俺どうでもいいよ。それに俺委員長さんきらーい。」

メイノさんが不機嫌そうに言い放つと、今度は雲雀さんがムッとする。雲雀さんリボーンが来て少しご機嫌だったのに!
ていうか本当に……嫌いとか本人の目の前で言うことじゃないでしょ!?いや、いないとこでならいいかというとそうでもないけど。

「僕だってその赤ん坊に言われたんじゃなきゃ、用もなく来ないよ。」
「はいはい、じゃあ今先生に会ったんだからそれでいいでしょ。さっさと帰れ。」
「君に言われると意地でも逆らいたくなる。もはや才能だね。」
「あーもう嫌だこの人!」

メイノさんが頭を抱えて叫ぶ。ぶっちゃけ俺もそうしたい。
とりあえず誰でもいいから……一人でもいいからこの部屋から出ていけばいい。あわよくばその一人が俺であってほしいが、贅沢は言うまい。

「じろくんっ……草壁さんに書類やったんだよね?委員長さんもついでに連れていって!」

メイノさんは怒鳴りながら天名さんと雲雀さんの背を押す。

「おい、“ついでに”の意味がわかんねぇぞ。」

「いーいーかーらー!俺のためを思って!……じゃ、ばーいばーい!!」

天名さんも雲雀さんも、メイノさんの発言に対し何か言おうとしていたが、それを言葉にする前にバタン、と音がして扉が閉められた。そして鍵もかけていた。
……やっぱこの人すごい。あの雲雀さんと、怖そうな天名さんを無理矢理追い出すなんて……。きっと怒らせたら俺なんかけちょんけちょんにされるんだろうと思いながら、想像したら少し怖くなってきた。
でも……生徒会なんて怖いくらい強くなきゃやってけないだろうし……この人選は正しい、のかな?まあ、少なくとも強制的にやらされる人間がいなくなったのはいいことだと思う。

「さすが生徒会長っつか、やっぱすげーのな会長。」
「阿呆か野球馬鹿。どんだけ強ぇのか知らねぇが、こんな奴十代目の足元にも及ばねぇな。」

「ちょっ!?何言ってんだよ獄寺くん!?」

「え?いや俺普通に負けるよ。」

「は?」

俺が獄寺くんの言葉に抗議した時、メイノさんが間の抜けた声を上げた。
つられて上げた俺の声に答えたのは、この厄介な状況を作り出した家庭教師だった。

「何言ってんだお前ら。メイノはクソ弱ぇぞ。」
「先生口わるーい。」
「うっせえ。」

ポカンとする俺たちに、メイノさんはごめんね期待外れで、とけらけら笑っている。
え……だって……マフィアで、生徒会長で、それにさっき雲雀さんと………、

「でもよ、あんたさっき雲雀に殴られたくせして平然としてんじゃんか。」

やはり誰でも同じ疑問を持つらしい。
雲雀さんのありえない程の強さは先日身を持って体験したから、なおさら疑問に思ってしまう。だって獄寺くんも……山本でさえ気絶したんだよ?俺には二人とは違う攻撃をしたから、らしいけど。あの攻撃に耐えられるのに、“クソ弱い”とか……説得力なさすぎる。

「さあ?じゃああの人がそう強くないってことじゃない?」
「ちげーぞ。雲雀が手加減してるに決まってるだろ。」
「手加減してあれ?馬鹿力め。……てかさ、俺あの人に最初会った時殴られて普通に意識飛ばしたよ。」

その時のことを思い出してか、メイノさんの眉間にシワがよる。痛いもんね、あれ。

「お前少しは鍛えたらどうだ。」
「やーだね。俺にはじろくんがいるからいいんです。」

呆れた声でのリボーンの言葉に聞く耳持たずでメイノさんが答える。リボーンにもやっぱゴーイングマイウェイは発動なんですね。まあ……気絶するほど強く殴られたのに雲雀さんに怯んでなかったから、きっと誰にでも変わることはないんだろうけど。
雲雀さん……雲雀さんと言えば、さっき一緒に出ていった天名さん。

「そうだ!天名さんって大丈夫なんですか!?」

雲雀さんと二人きりなんて……すごく危険だ!

「平気だよ。じろくんは俺と違ってそれなりに喧嘩できるから。………それより、沢田たちは人の心配してる暇じゃないよ?」
「え…………?」
「時計見なよ。もう下校時刻とっくに過ぎてるけど?」

“咬み殺される”よ?

何故だか楽しそうなその声を全て聞く前に、俺は悲鳴を上げながら2人を連れて生徒会室を飛び出した。








「あ、じろくんおつかれー。」
「てめえ……。」

多少制服が乱れた様子で帰ってきたじろくんを笑顔で迎えると、恨めしげに見てくる。
もう下校時刻が過ぎてるから、教室のほとんどが電気が消えているし、廊下もそうだ。俺も普段ならさっさと帰っちゃうけど、今日はじろくんを待ってなきゃいけなかったから。

「……なんでお前がまだいるんだ。」

じろくんが俺の隣にいるリボ先生に向かって吐き捨てるように言う。
……嫌悪を含んだ声。
いつまでも慣れない。じろくんが俺にそんな声向けるはずがないとわかりつつも、ついドキリとしてしまう。
軽く息をはいてそれを振り払う。

「じろくんーせっかく先生も帰りを待っててくれてたんだよ?」
「頼んでねえ。……それに、どうせ碌でもない事話してたんだろ。」
「あは、確かに碌でもない話はされたね。」

ね、先生。
俯く先生に笑いかけると、少し間を開けて顔を上げた。

「……将来的にディーノの下に就けと言っただけだぞ。」

じろくんに言うつもりは無かったのか、渋りながら答える。うろたえることのないはずの先生が少し焦ってるようでちょっと可笑しい。

「……キャバッローネが嫌ならボンゴレでもいいんだ。」

その提案に思わず吹き出してしまった。

「ほら碌でもない。何その優遇。そこまでして俺を入れて利益が出るとは思えないけど?」

自分で言うのもなんだかむなしいけど、俺弱いし、頭もそう良くないし、何か特殊技能もない。俺なんか推薦したら先生の信頼が下がるだけだ。
ボンゴレはジョークとしても……キャバッローネだって俺は嫌だ。大体もう兄さんが後釜におさまったし、その部下だって十分だ。今が一番バランスが保たれているのに、俺が入って崩れたらどうするんだ。
………とか、キャバッローネの為みたいに言うけれど、普通に俺が嫌なだけだ。別にキャバッローネにもしもポストがあったとして、俺は嫌だ。

嫌がる俺を無理矢理入れたがる理由もないだろうし、先生の考えは謎だ。

「うーん、あ、そうか。
俺が行ったらじろくんも来るか。じろくんなら戦闘力として役立つかも。
……でも駄目だよ。じろくんだけは、例え先生でもあげないよ。もちろん、キャバッローネにも……ボンゴレにも、ね?」

言いながらそろそろ帰り支度を進める。大分おそくなってしまった。鞄を取って、戸締まりを確認し生徒会室を出る。
俺が出る前にじろくんが出た。
先生はなかなか来なくて、早く、と促してやっと出てきてくれた。

鍵を閉めて、俺とじろくんが歩き出しても、先生はずっと立ちすくんでいたんだと思う。

「利益とか、そんなんじゃねえ……。」

そんな言葉が後ろから聞こえてきたけど、それには応えなかった。
応えられるかもわからなかったし、その言葉を信じることもできなかった。

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